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金属材料学的な視点から考えたケーブルの断線を完璧に防ぐ方法

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先日、うちの奥さんのiPhoneとモバイルバッテリーをつなげるために使っていたライトニングケーブルが故障してしまったので、ヨドバシで買ってきました。

よくあることだけど、断線しちゃったんですね。

だから、「タフで切れにくい!」と書かれている製品を選んでみました。用途がモバイルバッテリーとの接続用なので、長さが短いタイプをチョイスしました。

開封してちょっと触ってみたんだけど、確かにケーブルの被覆も強度があっていい感じです。これだったらちょっとやそっとじゃ断線したりはしないでしょう。

だけど、いくら強靭なケーブルであっても、気をつけないと断線は避けられません。

ケーブルの断線による故障というのは非常に多いです。頻繁に使用する機会のあるiPhone等の充電ケーブルもそうだし、イヤホンなんかも断線が原因で故障することが非常に多いですね。

ところが、僕自身はいろいろと気をつけながら使っているので、ケーブル関係を断線させた経験はまだなかったりします。と言うのも、「どうしてケーブルが断線するのか?」ということを知っているから、「どういう所に注意すべきか」わかるからです。

大抵のケーブルの内部は、電気を通す導体として銅の細い線が束ねられたものとなっております。つまり「」という金属の特性を考えていけば、どうして「断線」という現象が起こるのかも理解できるはずです。

そこで、僕が大学生の時に必須科目として履修していていた「金属材料学」的な視点から、なぜケーブルが断線するのか?そして、それを防ぐためにはどうすればよいのか?考えていこうかと思います。

と言っても、学生時代に習った内容なので、細かいところはけっこう忘れちゃっているし、当時使っていた本なども実家に置いてきてしまったので、初歩的なことを簡単にわかりやすくに書いていきますね。なるべく気をつけるけど、用語を忘れてたり、間違っていたりしたらごめんね!

<目次>

なぜケーブルが断線するのか?

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ケーブルの断線を防ぐ方法は主に次の2つです。

  • 急な角度で曲げない
  • 引っ張らない

すっごい大雑把に言ってしまえば、この2つのことだけ意識してケーブル製品を扱っていれば大丈夫。完璧に断線を防ぐことができます。

「金属材料学」などと言うと、ちょっと難しい感じがするかも知れません。でも、基本的な金属の特性だけでも知っておくと、ケーブルを大事に扱おうという気持ちになることができるかと思います。

この記事では、断線を防ぐ具体的なやり方というよりも、主にそれを防ぐための考え方と、どうしてケーブルが断線するのか?ということをメインに書いていきます。

ケーブルの中身は銅線

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ケーブルの内側には大抵の場合「銅」という金属でできた細い線が入っています。

銀色になっているものもあるけど、それは「錫メッキ」されているものだったりします。もしくは、高級なオーディオ用ケーブルなんかだと、無酸素銅に銀メッキやプラチナメッキがされている製品が売られていたりしますね。

まあ、ケーブルには用途に応じていろんな種類があるわけなんだけど、基本は「銅線」であることには変わりません。

銅という金属は、その便利な特性から、様々な用途に用いられている金属です。

展延性(伸ばして加工できる性質のこと)や導電性に非常に優れています。だから、ケーブルの導体として用いられることがとても多い金属なのです。

弾性変形と塑性変形

金属を曲げるときに起こる「変形」には2種類あるのは知っていますか?

それを「弾性変形(だんせいへんけい)」と「塑性変形(そせいへんけい)」と言います。

ちょっと難しい言葉と思えるかもしれないけど、内容的には非常に簡単なことです。

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弾性変形とは、金属を軽い角度で軽く曲げると、反発して元の形に戻ってくる変形のことを言います。

わかりやすいところで言うと、「バネ」とかですね。バネはこの「弾性変形」という金属の性質を利用した部品なのです。

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そして、金属をぐい〜っと急激な角度で曲げると、元の形に戻らなくなる現象。これを塑性変形と言います。

塑性変形は、金属のプレス加工なんかをイメージするとわかりやすいでしょうか。

当然、銅線も、弾性変形と塑性変形という変化が、曲げる強さや角度に応じて発生します。

銅は、軽い角度で曲げる程度だったら元に戻るバネ性があるんだけど、急激な角度で曲げると本当に変形しちゃうってわけですね。

弾性変形だけならば大丈夫

実は、「弾性変形」だけだったらいくらやっても、ちぎれたりすることがなくて、大丈夫なんです。

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例えば、ステンレスのバネ線を万力にセットして・・・

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・・・こんなふうにビヨンビヨンしても全然大丈夫です。無限に楽しむことができます。

つまり、ケーブルの断線を防ぐためには、弾性変形だけが起こるようなくらいの角度までしか曲げないようにすれば良いのです。

後で、もうちょい詳しく書いていきますが、塑性変形が起こる程の曲げを経験させてしまうと、どんどん金属疲労が溜まっていって、いずれ断線してしまうというわけです。

銅という金属は加工性が良くて、塑性変形にも、ある程度の回数は耐えることができる非常に柔軟な金属です。しかし、日常的に無理な変形が繰り返されるといずれブチ切れてしまいます。

加工硬化

塑性変形によってもたらされる変化を、もう少し詳しく見ていきましょう。

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↑例えば、こういう感じの太さ2mm銅線があるとするじゃないですか。当然、なんにもしてない状態なので柔らかくてグニャグニャしている状態です。

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↑これを金属用のローラーで伸ばします。塑性変形を発生させるということですね。

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↑そうすると、薄くなってしまうけど、もともとのぐにゃっとした状態とは違って、バネ板のように硬い状態になります。

金属は、曲げたり伸ばしたりというような加工を行うと硬くなります。これを利用して、世の中の金属製品は強度を得ていたりする場合もあるんですよ。

そして、この現象を「加工硬化」と呼びます。

「塑性変形」を発生させると、金属はその金属結晶中に「転位」と呼ばれるひずみみたいなものを生み出します。そして、それが増えることで「加工硬化」という現象が発生するということですね。

ちなみに、加工硬化された状態を元に戻すには、「焼き鈍し(やきなまし)」という工程が必要になります。銅が暗赤色くらいになるくらいまでバーナーで炙ったり、炉で温めたりすると焼きなましされて、元の柔らかい状態に戻すことができるってわけです。

破壊

僕は大学時代は金属工芸を習っていました。彫金という分野を専門にしていたのですが、金属で作品を作る際には、塑性変形と焼き鈍しを繰り返しながら作業を行うことが必要となってきます。

そうしないと、硬くて加工することが困難になってしまうし、何よりも無理に塑性変形させると割れてしまったりすることがあります。

この現象が発生するのは、ケーブルの「断線」が起こるのと同じ理由ですね。銅(金属)は無理強いするとダメなんですよ。

そして、これを「破壊」と呼びます。

わかりやすい例で言うと、「針金」ですね。

針金の一部分をグリグリとねじったりに曲げたりし続けていたら最後にはちぎれてしまった・・・という経験は誰しもがあるかと思います。

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これは、針金の一部分の「塑性変形」が繰り返されて、最後には「破壊」が起こってしまった、ということですね。

ただ、何度か折り曲げた段階で焼き鈍しをすれば、また柔らかくなるので大丈夫です。しかし、焼き鈍しを行うことができないと、割りと早い段階で「破壊」が発生します。

焼き鈍しをしない状態での塑性変形には限界があるというわけです。

引っ張りによる破壊

また、「曲げ」だけではなくて、「引っ張る」ことでも「破壊」は発生します。

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銅線は、軽い力で何度も引っ張ることで、負荷が蓄積されていって切れてしまう場合もあるんですよ。

でも、最も怖いのは、線材の耐久性を超えた力で、急激な勢いで引っ張るとその1回だけでちぎれてしまうこともあるということです。

イヤホンやヘッドホンで音楽を聴いていて、どこかに引っ掛けてしまって「ギャー!」ってなることありますよね。あれが原因でケーブルを断線させてしまった経験のある人も多いはず。

強く引っ張ってしまった場合、見た目的には大丈夫そうでも、内側の銅線の部分はダメージ受けています。こうなると、断線してしまう日に一歩近づいてしまった・・・ということになってしまいます。

そうそう、イヤホン・ヘッドホンのプラグって、こういう感じで強い力がかかるとスポッと抜けてしまうことも多いですよね。あれは、わざと抜けやすくなっているのだそうです。

一般的なイヤホンケーブルのプラグに、ロック機構がついていたりしないのは、抜けないと、余計に強い負荷がケーブルにかかってしまって、断線の危険が増してしまうからなんだそうですよ。

太い線材と細い線材の違い

ケーブルの内側に入っている銅線は、基本的には非常に細い銅線が複数集まった「撚り線」となっております。

ものによっては撚り線ではなくて、単線だったりします。単線は電源ケーブルやスピーカーケーブルなんかでよくありますよね。

当然、一本の線だけの単線は太く、複数の線が集合している撚り線の一本一本は細いです。

電気的な意味で言うと、単線のほうがノイズを受けにくかったりとか安定していたりとか、いろいろとメリットがあるんだけど・・・まあ、ここではそれは関係ない話なので、置いておきましょう。

太い線材」と「細い線材」の強度的な意味での違いについて話をしていきます。

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まず、太い線材は「曲げ」に弱いです。

それは、同じ角度で曲げたとしても、太い線材にとっては細い線材よりも「急激な角度で曲げられているのと同じ」ようなことになるからです。弾性変形だけで、塑性変形が発生しにくいのです。

逆に太い線は、ちょっと曲げただけでも、塑性変形してしまいやすいです。

したがって、「曲げ」に強いのは細い線ということになります。

じゃあ、世の中のケーブルは全部、めっちゃ補足してしまえばいいじゃん!となるんだけど、そういうわけにも行きません。

逆に細い線材は、「引っ張り」には弱いからです。

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これも想像してもらうとわかると思うけど、例えば髪の毛みたいに細い銅線と、爪楊枝並みの太さの銅線を同じ力で引っ張って負荷をかけたら細い銅線が先にちぎれてしまいますよね。

つまり、実際にイヤホン・ヘッドホンのケーブルでも、スマホの充電ケーブルでも、実際の取り回しを考えると、太すぎても細すぎてもダメというわけですね。

バランスが大事。

まあ、据え置きの電源ケーブルやLANケーブルなんかだったら太い単線とかがいいんだろうけど、イヤホンなんかに使用するようなケーブルは導体が細くして曲げに強くしないと使いにくいですね。

断線に強いケーブルが断線に強い理由

そして、太い線材の特性と、細い線材の特性、その両方の要望をある程度叶えているのが、最近良く見かける、「断線に強い」と言うのが売り文句のケーブル製品ですね。

実際に触ってみるとよくわかると思うのだけど、ものすごく表面が硬くて曲げにくいです。急な角度で曲がるということは、普通に使っている分には起こることはないでしょう。つまり、「曲げ」によって塑性変形が発生しにくい構造になっているというわけです。

そして、こんだけ硬い素材で覆われていたら、「引っ張り」に対する強度も相当なものなのでしょうね。極力、内側に入っている銅線に負荷がかからないように工夫されているように感じます。

中身の導体部分は細くても、その周囲でその弱さを強力にカバーしているケーブルです。

だから、その表面が強い素材で出来ているケーブルというのは、それなりに信頼性があるというわけですね。

曲げっぱなしならばOK

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ちなみに、どうしても急激な角度で曲げながら使用したい!ということも場合によってはあるでしょう。その時は、同じ角度で曲げっぱなしにしておくと良いですよ。

急激な角度で曲げてしまって塑性変形させたとしても、その一度だけだったら「破壊」にまで至ることはありません。つまり、その角度で固定された状態であるのであれば大丈夫です。

危険なのは、何度も折り返して、曲げたり戻したりを繰り返す行為です。

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↑これは最悪です。

この状態が繰り返されてしまうと、どれだけ強靭なケーブルであったとしても、断線してしまうのは当然のことでしょう。

どうしても急激に曲げたいときは、曲げたまま戻さないようにするのが一番ですよ。

断線しやすいイヤホン

僕はケーブル系製品を断線させてしまった経験はほとんどありません。

だけど、以前、唯一断線させて壊してしまったイヤホンがあります。それは、コードリールで巻き取る形式のイヤホンですね。

TDK LoR 巻き取り式イヤカナル CLEF-FINE ブラック TH-EC130BK

こういうのね。

これは、使う度に引っ張るし、収納する度に曲げまくるしで、ここで書いた理論的には非常によろしくないイヤホンなんですよね。

巻取り式のイヤホンは、けっこう便利ではあるんだけど、使い捨てくらいの感覚で使うべきでしょう。

断線を防ぐ方法

ここまでに書かれたことを意識しながらケーブルを扱うようにすれば、どっかに引っ掛けたりとか、よっぽどの事故でもない限り大丈夫です。断線は完璧に防ぐことができるはずです。

画期的な裏技みたいなやり方があるわけじゃないんだけど、普段から気を使いながらケーブルを触るのが一番ということですね。

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例えば、ケーブルの根本を持つようにして、ケーブルに余計な引っ張りの力を加えないようにするとか、基本的なところを忘れないようにしましょう。こういうのを、おろそかにすると、少しづつダメージが蓄積されていって、いずれは断線してしまうことになるでしょう。

また、特にイヤホン・ヘッドホンなんかは、プラグの根本付近のケーブルが急激な角度で曲げられてしまって、負荷がかかってしまうことが多いです。しかも、かばんやポケットの中に、ミュージックプレイヤーごと入れてしまうので、本人は気づいていないことが非常に多いです。

これらのことを気をつけつつ、愛を持って製品を使用するだけでも、断線による故障を防ぐことができるようになるでしょう。

「断線に強い」とされている強度の高いケーブル製品を選ぶのも良いと思います。「強い」とは言っても、無茶すると断線するときはすると思うけど、丁寧な扱いに自信がない人はそういうケーブルをチョイスするほうが長く使うことができると思います。

急激な角度で曲げたり、強い力で引っ張ったりしないこと。

とにかく、ケーブルが使われている製品のケーブル部分には、余計な負荷がかからないように常に意識して優しく扱ってください。

それが、断線を防ぐための、最も有効な方法です。

まとめ

僕達の身の回りには、現在いろんな電子機器があふれていて、それを使うための「ケーブル」も非常に多いです。

しかし、頻繁に使用するものであればあるほど、断線してしまう危険があります。

だけどそれは、「どうして断線してしまうのか?」ということを知っていて、きっちり気をつけてさえいれば、回避することが可能です。

ケーブルの内側の導体は基本的には「銅の線」ですからね。曲げたり引っ張ったりすれば、いずれは金属疲労で切れてしまうもんです。だけど、やさしく扱っていれば、断線による故障は防ぐことができるはずです。

少なくとも、ここに書いてあることを意識しながら、愛を持ってケーブルをいじっていれば、(突発的な事故以外は)完璧に断線を防ぐことができるでしょう。

まあ、簡単にまとめちゃうと「やさしく丁寧に扱おう」ってことですね。

以上が、金属材料学的な視点から考えたケーブルが断線してしまう理由と、それを防ぐ方法でした。

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