MIKINOTE

作品制作とその他思った事を書くブログ

コンデンサ3000個で肺胞を、抵抗1400個で気管を表現した肺

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「素材」をテーマにしたアート展:LOVE THE MATERIAL in AOYAMAに展示参加します - MIKINOTE

昨日、やっとのことで、展示の作品搬入が終わりました。

昨日は、車を運転したりとかなんやかんやあって、疲れてしまって、早めに寝てしまいました。だから、ブログは書けませんでしたが、この記事では、前回の記事に引き続き展示に出品している作品の紹介を書いていきたいと思います。

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展示に出品しているもう一つの作品のタイトルは『iPSパーツ〜肺』です。

「iPSパーツシリーズ」には、現在のところ「頭蓋骨」「目」「手」があるのですが、その中の「」をモチーフにして制作した作品です。

抵抗やコンデンサ等の電子パーツを1つずつハンダ付けして、立体作品に仕上げるという非常にマニアックな手法で制作しました。

制作期間は、この作品の合間に、別の作品を作らなくちゃならなかったりして、2ヶ月ほど作業中断したりしたので、実ははっきりしません。でもまあ、それを差し引いて計算しても完成まで3ヶ月以上かかっていることになります。

コンセプト的には、前回の記事で書いた『iPSパーツ〜頭蓋骨』とほとんど同じです。有機的で貴重な人体のパーツと、無機的で複製可能なパーツを対比的に表現した作品です。

ただ、この作品の場合は、個人的に制作の工程が難しかった印象がかなり強いですね。

構造的に頭蓋骨よりも複雑で、いろいろと工夫をしながら制作をしました。サイズ的にも(僕の作品としては)かなり大きいし、作るのに苦労しました。

制作工程

『iPSパーツ〜肺』の制作工程について書いていきます。

この作品も、使用した電子パーツの数は非常に多くて、セラミックコンデンサを約3000個、抵抗を約1400個使用して制作しました。

制作期間が長くなってしまったのは、ハンダ付けしなくてはならない量が多かったのもあるのですが、単純に形が難しかったせいでもあります。

特に重量を支えつつ自立させるあたりが、非常に難易度が高かったですね。

油粘土で模型を作る

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最初に、油粘土を使って、肺の模型を作ります。

肺は、頭蓋骨と違って写真の資料なども少ないし、絵などを参考にして、イメージ優先で立体的に作ってあります。そうしないと、上手く表現できないと思ったからです。

そもそも、実際の肺はこのように自立するようなものでもないし、ある程度イメージを織り交ぜつつ、上手いことそれっぽく造形したつもりです。

また、油粘土だけだと重さで崩れてしまう不安定な形状なので、角材や針金などで補強しながら粘土模型を作りました。

この粘土模型を参考にしながら、本番の作品を作っていきます。

使用する電子パーツ

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今回紹介する肺の作品は、前回の頭蓋骨のように「抵抗」だけではなくて、「セラミックコンデンサ」も使用します。

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形状と色的に肺胞っぽいかなと思って、この材料を選びました。

実際の健康な人の肺はピンク色らしいですけどね。このパーツだったら、肺胞がプチプチしてるっぽい感じを表現できる気がしました。

気管を作る

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まずは抵抗を使って、肺の「気管」から作っていきます。抵抗の足を、長細い形状に折り曲げたり切ったりして、適度なサイズと形にしてから、ハンダ付けをしていきます。

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一つずつピンセットでつまみながらハンダ付けをして、徐々に成長させていくようなイメージですね。

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ある程度のところまで気管を作る作業を進めたら、今度は、抵抗の足を大きめにカットして、細かめのパーツを用意します。

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そして、横方向にこの細かい抵抗をハンダ付けしてくっつけていきます。

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ちょっと気管っぽくなってきたかな?

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抵抗の足の長さを変えて、サイズと形が異なるパーツをいくつか作ります。

くっつけるパーツのバリエーションを増やして、さらに密度を増す作業をひたすらやっていきます。

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かなりずっしり感が出てきましたね。まだまだ弄りたいところだけど、とりあえず気管の部分はこのくらいにしておいて、次の作業に進むことにします。

気管支を作る

気管がだいぶ出来上がったので、次は「気管支」にあたる部分を作っていきます。

気管支は、気管の先のほうが枝分かれしているような部分なので、それをイメージしながら表現していきます。

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まずは、抵抗で紐のようなパーツを、別パーツであらかじめ作っておきます。これを、気管本体にくっつけていく感じですね。

気管は、まだ自立することができない形状なので、木材で作った土台に針金などを使用してくくりつけて、宙に浮かせながら作業していきます。

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こんな感じで、抵抗で作った紐(気管支)をハンダ付けしていきます。

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気管支も血管もそうだけど、人間の体は木の根っこみたいな部分もありますよね。たしか、大学時代に美術解剖学の授業で先生がそんなことを言っていたような記憶があります。(その講義中に見た肺の写真?血管の写真?は、めちゃくちゃ植物ぽかった!記憶が間違ってたらごめんなさい。)

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↑このくらいで、気管支を作る作業は終わりです。ほんと、木みたいだよね。

まだこの段階では、強度が全く無いような状態なので、今後は立体作品として仕上げるために、補強していくような作業が多くなっていきます。

肺胞を表現していく

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ここからは、セラミックコンデンサをメインの素材として使っていきます。

この電子パーツを、いわゆる「肺胞」っぽいイメージを表現するためにひたすらハンダ付けしていきます。

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気管支同士の隙間を埋める感じで、くっつけていくのです。

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ひたすら、セラミックコンデンサを増やして、ボリューム感をアップさせていきます。

重量の問題が発生

ところが、くっつけたパーツの量が増えていけば行くほどに、重量は増していきます。そのために、この辺りから中心部分の気管だけの強度では、徐々に耐えられないようになってきました。

左右のセラミックコンデンサの重量に耐えられなくなって、左右がズルズルっと落ちていってしまうかんじですね。

これは、どうにかしないと、作業をすすめることもできないし、立体作品なのに完成後も自立しない!というような事態にもなりかねません。

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そこで、適当な真鍮の針金を使って、補強をすることにしました。格子状にハンダでくっつけた真鍮線を本体に取り付けてみました。

この段階では、補強材を仮にくっつけておいて、重量問題が解決したら後で取り外す作戦ですね。

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これだったら、土台から取り外して、手で持っても大丈夫!

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↑重量問題の対策の一つとしては、裏側から目立たないようにパーツをハンダ付けして補強していくことですね。

これは、見た目の雰囲気的に「あっ、この中心辺りは重さに絶えられなくて補強して太くなったんだな」とか、作為的に思われないようにするために、けっこう気を使いながら作業しました。

その結果、見た目的には変わらない感じで、持ち上げたりしてもプロポーションが崩れたりすることもないくらいに強度を増すことができました。

それと、もう一つの対策として、この段階くらいから支えが無くても作品が自立するように、作品と床との接地面をきっちり作りこむ作業をしました。そうすることで、今後の作業もやりやすくなるので。

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↑まずは、いい感じの角度に立たせるために、木材を利用して支えを作り、針金で固定します。

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↑そして、固定された状態のまま、床に設置する箇所にセラミックコンデンサなどを多めにハンダ付けしていきます。支えを利用して、角度を固定した状態で、床との接地面を強化していくというわけですね。

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このやり方で作業することによって、最終的には支えがなくなっても自立している状態にすることができます。

この作品は、こうして自立していさえすれば、重量のせいで作品が変形したりすることはなくなるので、ここまでやってしまえば安心ですね。

仕上げ

重量問題が解決したら、後はひたすらハンダ付け祭です。

とにかく、肺の重量感とボリューム感を表現するために、いい感じにパーツをくっつけていきます。

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それが終わったら、最後は全体のバランスをチェックしながら、調整していく作業です。

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最初の方に作った気管の部分も、ここまで作りこんでくると、ちょっと足りない感じがしてきます。そこで、少しだけ抵抗を追加したりします。

ちょっと気になったのが、気管が途中でぶった切れすぎてる感じがあったことです。と言うのも、気管のさらに上の方には喉とか口とかあるはずなので、途中でぶった切れてる感があると不自然に感じてしまいますから。

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さっきよりは、上の方に続いてる感が出てきたかな?

こんな感じで全体的に微調整をして、完成です。

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作業の途中の姿から考えると、だいぶ密度が出てきて、いい感じになったのではないでしょうか。

使用したパーツは、正確な数はわからないけど、セラミックコンデンサが約3000個、抵抗が1400個くらいです。合計4400個ほどの電子パーツを使用したということになります。

制作期間は、3ヶ月以上です。他にもいろいろとやることがあるので、毎日作業していたわけではないけど、完成までにかなりの時間がかかってしまいました。

これだけ時間がかかったというのは、作業量が多い作品であると言うのもあるんだけど、重量問題の解決に苦労したのが、けっこう大きいですね。いろいろ工夫したら、なんとかなってよかったけどね。

以上が、電子パーツを使用して「肺」を表現した作品の制作工程でした。

コンセプト

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ここからは『iPSパーツ〜肺』のコンセプトについて書いていきます。

と言っても、前回の頭蓋骨のiPSパーツとほぼ似たようなコンセプトなので、文章の殆どは、前回の記事から引用してしまうことにします。

タイトルとテーマについて

タイトルの「iPSパーツ」とは、「iPS細胞」と「電子パーツ」を組み合わせた言葉です。

iPS細胞は、再生医療等の技術として非常に注目を集めているわけですが、この作品シリーズも「臓器移植」等を、テーマの1つとして考えたものだったりします。

人間の健康というのは、かけがえのない貴重なものです。どこか1つの体のパーツが失われたり、機能しなくなったりするだけで、それが損なわれてしまいます。

だけど、現在のところ、簡単に人間の体は、たとえ一部分であっても複製したり創りだしたりすることはできません。将来は再生医療の発達によって、それが可能になるかもしれないけど、現在のところはそこまで医療技術は進んでいないのが現実です。

僕は、とある経験から、健康であるということと、それが失われた時にどんな気持ちになるのか、そしてそれがどんなに取り返しのつかないことであるのか、ということを学びました。

だからこそ、iPS細胞というのは、難病に苦しんでいる患者さんとその家族にとっては希望の象徴のような存在でもあります。

そこで、「電子パーツ」という、工業的で無機的な量産可能な部品で人体のパーツの一部を創りだすことを思いつきました。電子パーツという、秋葉原などのお店で簡単に買うことができるような部品で、人体の一部分を作成することで、人間の命の尊さを対比的に表現したというわけです。

それが「iPSパーツ」という作品シリーズに共通するテーマです。

  

デジタルな存在

また、「電子パーツ(抵抗)」という、電子機器の基板に必ず使用されている素材を使って立体表現したことで、「デジタル」なイメージも感じ取ることもできます。

見た目的に、透けていて空間感のある頭蓋骨。実際に見てみるとなんとなく実体がないような雰囲気も感じ取れるはずです。このようなビジュアルに表現したのは、この作品が「電子的で形のないデータのような存在」であるということも意味しているからです。

最近だと、デジタル技術が進歩していて、人工知能なんかもすごいですよね。段々と本当の生き物に近づいているような感もあります。

だけど、デジタルデータと言うのは、コピー&ペーストすれば、それだけでいくらでも複製ができるものです。そこだけは、生き物との決定的な違いであると思います。

しかし、人体のパーツや、「命」と呼ばれるものは、コピペして簡単に創りだすということはできません。

クローン技術などもあるにはあるけど、それも倫理的な問題があったりします。データはいくらコピーしても問題ないですが、命は複製すると問題が生じるのです。よく考えたら不思議なことですよね。

そういった感覚も、デジタルデータとのギャップを感じる部分だったりします。生命体と、デジタルデータや工業的に量産できる無機的な物には、我々人間の感覚の中で、絶対的な差があるのです。

人体の一部分と、それを将来的に複製したり出来てしまうかもしれない技術。それを、工業的・デジタル的な存在と対比的に表現して、「生と死」、そして「命の尊さ」を表した作品。

それが『iPSパーツ〜頭蓋骨』というわけです。

2ヶ月かけて5500個以上の抵抗をハンダ付けして作った頭蓋骨 - MIKINOTEより)

呼吸のために必要な臓器

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肺という臓器は、呼吸をして体内に酸素を取り入れるために必要不可欠な臓器です。

それ故に、肺がないと、人間は生きていくことができません。

もちろん、他の臓器や体のパーツも、全部大事なものではあるのだけど、「呼吸」は、特に「生きている」という感覚を連想させる活動であると思います。

だから、「iPSパーツ」シリーズの作品としては早めに作っておかなくてはならないよね!と思ったモチーフだったりするのです。(そのうち、他の人体のパーツも全部作りたいと思ってるけど、いつになってしまうかわからないので…)

また、肺は移植医療の中でも移植することが難しいとされている臓器の1つだったりするのだそうです。非常に長時間に及ぶ手術が必要だそうです。

それと、心臓などもそうですが、肺移植の場合、ドナーの殆どは脳死してしまった方からの移植がほとんどなのだそうです。非常に難しく、問題の多い話です。iPS細胞の技術でなんとかできる日が来ると良いのですが、それはまだ先のことでしょう。

だからこそ、生命の尊さを表すという意味で、「肺」というモチーフは良いのではないかと思いました。

それが、この作品を作ろうと思った動機です。

まとめ

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以上が、『iPSパーツ〜肺』を制作した工程と、コンセプトでした。

この作品は、僕の、電子パーツをハンダ付けして制作する作品シリーズの中では、最もサイズ的に大きな作品です。持つと、ずっしりと重たいです。(細かく重量は計ってないけどね。)1つずつは重さを感じないくらい軽い電子パーツが、これだけの重量になるというのも、なんだか不思議なもんですけどね。

作るの大変だった!ということで、思い出に残っている作品の1つです。

現在、この作品と頭蓋骨の作品は、昨日から始まった展覧会の会場(東京の青山辺り)で展示しています。詳細は下記の記事を読んでください。

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実は、明日は展示会場の当番なので、11時くらいから19時まで会場に居る予定です。

なので、もしも作品を観に来ていただけたら、ものすごく嬉しいです。声をかけていただければ、いろいろと詳しいことを話すこともできますので、よろしくお願いします。

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