MIKINOTE

作品制作とその他思った事を書くブログ

黄金比の簡単な見つけ方と生み出し方とそのための3つの考え方

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portal.nifty.com

先日、上記の「無理やり黄金比を見つけ出したい」というタイトルの記事を読みました。

これ、試みとしてはすごくおもしろいです。またこの記事のように、世の中の色んな所に黄金比が隠れているのも事実です。

しかし、黄金比を見つけるための考え方としてはちょっと間違っていて、そもそも黄金比のことをよく知らない人が書いた記事なんだろうなあと、もやもや感が残りました。(読み物としては楽しかったけどね。)

僕は普段、作品を作ったり、他の人の作品を観たりする時は黄金比をなんとなく意識しながら観ていたりします。そして、そうした特別な比率を意識するかどうかでは絵画作品や彫刻やデザイン、もっというと写真撮影や建築や料理等、いわゆる「作品」と呼べるものの見方が全然変わってきます。

また、黄金比などの比率に対する観察の方法と考え方がわかってくると、それに伴って、何かを作るときの考え方も変化してくるでしょう。

元々、植物や動物などの自然物は絶妙に黄金比が採用されたデザインがされていることが多いです。そういう方向性でものを見ていくと、自然界に存在するものの造形の素晴らしさと完璧さが見えてくることがあって感動することすらあります。

てなわけで、普段僕が作品を作ったり、他人の作品を鑑賞するときにやっている黄金比を見つける方法と生み出し方、そしてそのための考え方について、画像と説明図などを用いつつ説明を試みてみようと思います。これが分かると芸術作品はもちろんのこと、身の回りのいろいろなものの比率を見ていくのが劇的に楽しくなります。

なお、ここで書く内容は、僕が経験から得た感覚を元に考えた、独自にやっている手法です。したがって黄金比の「1:1.618…」という比率を正確に計測していく・・・みたいなものでもありません。どちらかと言うと「実践的に黄金比を活かすための方法」という方向の考え方で書いていきます。ですので、黄金比に対しての正確な理解をしたいのであれば別の記事や本を読むのをおすすめします。

この記事では初心者でもわかりやすく「感覚的に黄金比を見つけ出して、活用していくことができるようになるためのちょっとした考え方」「こういう感じでものを観察すると比率の魅力が分かるよ」みたいな感じの内容にしていこうと思います。

<目次>

黄金比について

実は僕自身も黄金比とか黄金率とかの理論を正確に理解しているわけではなかったりします。そもそも複雑な数式とか見せられても(特に美術系の人は)よくわかりませんからね。ルートとか見るだけで頭が・・・

ただ、小難しい計算式や理論よりもずっと重要なのは、見たり作ったりするときに感覚レベルで対象物のパーツごとの比率の意味が理解できていることです。

そして、黄金比を見つけ出すための考え方がわかっていれば、美しいとされている比率を見つけ出すことはそれほど難しくないでしょう。

なので、なるべく誰にでもわかりやすいように、いろいろと簡略化&専門用語を使わない&説明図を使いながら黄金比を理解するための考え方について説明していきます。

黄金比とは

そもそも黄金比とはなんぞや?という話です。

試しにネットで黄金比を検索してみると、ウィキペディアの記事が最初に出てくるわけですけど・・・

黄金比(おうごんひ、英語: golden ratio)は、
1:{\frac{1+\sqrt{5}}{2}}
の比である。近似値は1:1.618、約5:8。

線分を a, b の長さで 2 つに分割するときに、a : b = b : (a + b) が成り立つように分割したときの比 a : b のことであり、最も美しい比とされる。貴金属比の1つ(第1貴金属比)。

黄金比 - Wikipediaより引用)

うん!意味全然わからないよね!!

でも、実はそんなに難しく考えることはないと個人的には思います。

黄金比ってのはめちゃくちゃ簡単に言っちゃうと、1:1.618…の比率でできているものは美しいよ!って、ただそれだけ話です。それが黄金比の基本ですね。

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↑黄金比と言えば上記の図が有名ですが、これはいろんな箇所の線の長さの比率が1:1.618…になっていると言うものです。また、黄金比が連続するとアンモナイトのような自然で法則性のあるような感じの形状が出来上がったりもします。

フィボナッチ数列とか聞いたことない?あれも黄金比と関係しているそうです。

まあ、数字が細かいと考えるのが大変になるので、普段は四捨五入して「1:1.6」で考えても良いでしょう。

ただ、黄金比に関しての話でわかりにくいところとして、「ものを見るときにどこを見て、この比率を当てはめれば良いのかがよくわからない」というところなのではないでしょうか。

黄金比は僕達が普段よく目にする様々なものに使われています。わかりやすいもので言うと、クレジットカード等のカードの縦横比が上げられます。

クレジットカードのサイズは53.98mm×85.0mmだそうなので、ほぼ黄金比ですね。

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近所のセブンイレブンで使うために持っているnanacoカード

こういう感じで黄金比の比率関係になっているものやその部分を見つけていく・・・というのが基本的な見方だと思ってくれて問題ないと思います。簡単ですね。

定規とかメジャーを持って家の中を探すと他にも黄金比を発見することができるでしょうね。

他にも有名なところで言うと、「ミロのヴィーナス」とか「パルテノン神殿」なんかの古代の造形作品にも黄金比が採用されていたりします。昔の人、すごい!

ただ、こういった複雑な造形物の場合、黄金比が採用されていたとしても複雑にいろんな箇所の比率関係が絡み合っていて、非常にわかりにくいです。それで、いろいろと長さを測ったりして分析をしたりとかする研究者の人とかもいるわけですが、慣れてくると(なんとなくの)感覚だけでも黄金比を感じ取れるようにもなってきます。

それと、黄金比は、「黄金率」だとか「黄金分割」とか呼ばれることもあります。それは黄金比と同じ意味だと思ってくれて問題ないと思います。

黄金比は美しい

なぜ多くのデザインや作品に黄金比が採用されているのかというと、黄金比は美しいからです。

写真とか見てて「うわ〜この写真の構図めっちゃいいな!」とか思うと、その写真に写っている様々な箇所の比率が黄金比になっていたりすることが多いです。

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Appleのロゴマークが黄金比でできているのとかも有名な話ですよね。完成度の高いデザインには、緻密に計算された黄金比が採用されているケースがたくさんあります。

こうしてみていくと、Appleのリンゴマークは普遍的な美しさを感じますよね。非の打ち所がない印象です。

ものを作ったりデザインするときは、適切ではない比率の箇所が多くなると非常に退屈で窮屈な印象の物ができてしまいます。だから、画面内のいろいろな要素を比較して、例えば均等なバランス過ぎてつまらない雰囲気のものになりそうな状況であるならば、あえて不均等な比率で構成を考えるたりするわけです。

そのときに最も美しい(かも知れない)不均等な比率が黄金比ってわけです。

黄金比は、自然界の中に多く存在している比率なんですよね。例として有名なものとして、ひまわりのたねの配列や、ロマネスコカリフラワーなんかは連続した黄金比でできているそうです。

この自然界に多く存在する比率がどういうわけか人間が見たときに非常に自然で心地よくて洗練された比率であるように感じられるのです。1とか2とかみたいな切りの良い数字で割り切れるような比率ではないにも関わらず、美しく、それだけでまとまりのよい雰囲気が出ちゃうという奇跡のような比率。それが黄金比です。

人間も自然界の動物の一種ですから、自然界に自然に存在している黄金比という比率は本能的に心地よく感じられるということなのかもしれません。

とまあ、簡単に黄金比とはなんぞや?というのを説明するとこんな感じです。

黄金比についてもっと詳しく正確に知りたい人は、さらに検索してみたり本を買って読んでみたりすると良いかと思います。


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この記事を書こうと思ったときに参考にと買ってみた本。小さくて薄い本だけど、内容的には少し難しいかも。でも、身の回りの様々なものに黄金比が隠されているということが書かれていておもしろかった。

黄金比:自然と芸術にひそむもっとも不思議な数の話 (アルケミスト双書)

黄金比:自然と芸術にひそむもっとも不思議な数の話 (アルケミスト双書)


余談ではありますが、花とか果物とか風景みたいな自然物の絵を描いたり、時にはそれらを模刻したりとかを美術の勉強の基礎としてひたすらやったりしますよね。これは美術やアートのテクニック的なものを練習するというだけではなくて、黄金比を始めとするその他の自然界に存在する比率を体で覚えるためという目的があったりするわけです。

こういう基礎的な訓練をしている人としていない人では、描写力だけでなく構成力や構図力にも大きな差があると言うのが僕の持論です。

白銀比

それと、黄金比と似たもので「白銀比」というのもあるそうです。(白銀比は1:{\sqrt{2}}。つまりおよそ1 : 1.414…の比率です。)

f:id:takayukimiki:20170912151140j:plain 最も身近な白銀比が採用されているもの・・・というと紙のサイズなどがわかりやすいです。A4のコピー用紙の縦と横の長さを計るとちょうど1 : 1.414…の比率でできているはずです。

おもしろいのがA6→A5→A4→A3…という感じで、紙のサイズが大きくなっても縦横比は変わらないところですね。A5の用紙がない!という緊急事態でもA4の用紙を半分に切れば2枚のA5の用紙にすることができるので便利ですね。

白銀比も黄金比と同じく、人が見て心地よく感じる比率です。

また、この2つの比率の他にも見たときに心地よく感じる比率は存在します。自然界のものでも人工的なものでも、「美しい」とか「かっこいい」とか「かわいい」と感じるものは、複雑にいろんな比率が折り重なって、そう感じさせているってことですね。

なので、実際に何かものを作ったり見たりするときは、黄金比と白銀比とその他の比率などを複合的に考慮しつつ考えていく必要があったりします。(これについてはあとでもう少し説明を書きます。)

1:1.6

黄金比は最も美しいと感じる比率の1つではあります。しかし現実的には黄金比で作ることばかりが最適な場合ばかりではありません。良い感じの比率関係は1つの場所だけではなくその他の箇所の影響を受けて成り立っているからです。

なので、僕は、1:1.618とかだと非常に細かい数字になってしまって考えるのが面倒になってしまうので「1:1.6」という数字で、普段黄金比について考えるときは考えています。

何か作るときもなんとなく1:1.6の比率で考えておいて、あとで目分量で微調整って感じです。定規で計ったように精密に構成を設計しても、結局の所最後の微調整で比率は完全な黄金比にはならないことが多いですから。(精密に比率を計算しながら作業をしなくてはならない場合もあると思いますけどね。)

とまあ、いろいろと理由をつけましたが、説明を出来る限りシンプルにするためにも、ここでも1:1.6ってことで考えていくことにしましょう。

黄金比の見つけ方

さて、前置きが長くなりましたが、ここからは本題の黄金比の見つけ方について書いていきます。

それと何度も断っておきますが、この記事の内容は自分の経験から会得した独自の手法の紹介です。造形的なバランス感覚の話として実践できる重要なことばかりを記述するつもりではありますけどね。

したがって、ただ黄金比であるというだけではなく、造形的に優れたものを作り出すための考え方みたいな方向にも話を広げつつ説明していきます。

なので、厳密に言うと「全然黄金比関係ないじゃん!」というツッコミが入りそうな脱線した内容も含まれますので、それを踏まえた上で読んでいただけると良いかと思います。

また、幾つかの写真画像と説明図などを使って説明していくわけですが、それらが「黄金比のもの」ということで最適なものばかりというわけでもありません。1点を除いて僕の作った作品や撮った写真なので・・・一応、説明図を作るためにわかりやすそうなものを選んだつもりではあります。

それらの点を念頭に置いて読んでいただけると良いかと思います。

3つの考え方

そもそも、黄金比を見つけるためにはどんな感じの考え方でものを見れば良いのか?という話です。

黄金比は主に3つの方向性からものを見ていくとわかりやすいです。

  • 長さの比率
  • 量の比率
  • 空間の比率

「長さ」とはもののいろんな箇所の比率です。縦横比や、観察対象を幾つかのパーツに切り分けたときのパーツの幅や長さや距離の比率だったりします。

「量」とは、量感のことです。目で見て感じられる大きさの比率を見ていくと、心地よい比率かどうかが見えやすいです。

「空間」とは、ものを取り巻く背景の空間のことです。空間の量の関係を比較することは非常に重要です。

以上の3つの考え方に基づく観察方法について、説明を書いていきます。

長さ

「長さ」とは縦と横の長さや、幾つかのチェックポイントを決めて置いて、その部分同士のを繋いだ距離やその長さのことです。

シンプルにこれらの長さの比率が1:1.6になっていれば、それは黄金比である可能性があります。

では、具体的に見ていきましょう。

縦横比

一番わかりやすいのは、先程紹介したクレジットカードのような縦横の比率ですね。

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平面的な直方体的な形状であれば、縦の長さと横の長さの比率だけ見ていけばよいだけなので、非常にわかりやすいですね。

また、平面的なものだけでなく、立体的な造形物や、複雑な形状のものでも黄金比を見つけることができることがあります。

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作りかけの電子部品の脳みそ作品
これは今作っている脳みその作品なのですが、これを側面から撮った写真を利用して説明します。

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側面から見た脳みその作品

立体物の黄金比を見つけるためには、それを見つけやすい角度から観察をすることも大事だったりします。

で、真横から見たこの脳みその縦横比を1.1.6の線を書き足して調べてみました。

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縦横比はほぼ1:1.6

完璧とは言えないですが、そこそこ黄金比です。

このように、立体的なものでも、写真にグリッド線のような1.1.6の線を書き足して調べると、簡単に黄金比なのかどうなのかを(ほぼ)判別することができます。

目で見た時は、この1:1.6の長方形形を良く覚えておいて、心のなかで線を書き足して観察すると判別することができるでしょう。

パーツごとの長さ

黄金比を見つける際に必要なのは縦横比だけではなくて、それ以外の部分の長さの比率も1.1.6であれば黄金比と言って良いでしょう。

そのためにはまず観察対象のパーツを程よいところで切り分けるような形にして、その長さを調べて比較していくことも必要になります。

非常にわかりやすいなと思ったのが「スカイツリー」ですね。

これは黄金比について書こうと決めたきっかけになった先日のデイリーポータルさんの「無理やり黄金比を見つけ出したい」という記事を見ていて気づきました。あの記事では黄金比なのかどうか自信なさそうな感じで書かれていたけど、これは非常にわかりやすい黄金比であると思います。

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このスカイツリーの画像はフリー素材です。(ぱくたそ)さんから拝借しました。

この画像に1:1.6の線を引いてみると・・・

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ほぼ完璧に黄金比が採用されていることがわかります。

このように、対象物をパーツごとに分けてその長さ比率を見ていくのは黄金比を見つけるための基本的な方法です。


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パーツごとの長さの比率が1:1.6

↑これはちょっと強引な例かもですが、こういう感じの方向性で観察したとしてもこの脳みそはなんとなく黄金比です。


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動かないことで有名なハシビロコウさん

これは、以前、上野動物園に行ったときに撮影したハシビロコウの写真です。

やっぱりこうしてまじまじと見てみると、ハシビロコウってめっちゃかっこいいですよね!

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頭と胴体の長さ比率が1:1.6

で、計ってみると頭の長さと胴体の長さの関係はほぼ黄金比でした。

自然界の動植物の比率の全てが黄金比で構成されているとは限りません。しかし、「かっこいい」とか「美しい」と感じるものは大抵のばあい黄金比だったりするんですよね。

ちょっとした比率の変化で、対象物の印象はずいぶんと変わってしまいます。それが比率のおもしろいところなんですよねえ。展覧会とかに行って、かっこよい比率の作品を見つけるとまじまじと見たりしちゃいますもん。

美術やアートでは、ものの体積とか大きさとか塊感を表す言葉として「量」という表現が使われることがあります。「量感」という言い方のほうがよく聞く言い方かもしれません。あんまり聞かないけど、もっとマニアックな言い方だと「マッス」という言葉が用いられることもあります。

ここで言う「量」というのは、実際に計測した体積っていうわけじゃなくて、(上手く言えないけど)パッと見たときに感覚的に感じられるものの大きさとかをなんとな〜く表した概念ですね。計測した本当の体積ではなく、イメージ優先の体積って感じです。

立体物はもちろんのこと、平面的なものにも「量」という言葉を使います。平面の場合は面積だけではなく、そこに表現されている立体感や空間性だとかも含めて感じ取らなくてはならない感覚だと思います。

ある意味で非常に曖昧な言葉です。こうして説明してみようとすると非常に説明が難しいですねえ・・・

なので、先程の「長さを計る」みたいなかんじで、「量」を正確に「1:1.6」で表すことはできません。あくまでも感覚的に判断しなくてはならないものです。

しかし、量の比率も黄金比的な「美しい」と感じられる心地よい割り合いが存在しているのも確かです。で、何が言いたいのかというと、量を感じることを意識すれば、黄金比を発見する手がかりになるという話ですね。

目で見て黄金比を発見したり活用するためには量で見ることが大事だったりするのです。

感覚的な話なので非常に説明が難しいですが、例として下記の図を見ていきましょう。多少でも、わかりやすくするために作品を部位に分けて色のついた斜線を塗ってみました。

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「量」で見た脳みその図

↑量で見ると図の赤い部分と青い部分の大きさにかなりの差があるということが分かるはずです。

部分で見るというよりも、全体を大きくパーツごとに分けて「印象」で比率を判断する・・・と言うようなイメージだと思ってもらえれば良いです。

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「量」で見たハシビロコウ

↑ハシビロコウの頭部と胴体の量の比率を表してみた図です。やはりハシビロコウさんはいい感じの量バランスですね。

こうして量で見たり感じることで、少なくとも黄金比っぽい?みたいな比率を発見できる確率は上がるでしょう。

実践的には長さで見るよりも量で見るほうが重要だったりします。

なぜ量で見る必要があるのか?

なぜ量で見る必要があるのかというと、長さだけで見ていると目測を誤ってしまうことがあるからです。

長さ比率は黄金比であることに間違いないのに、それが心地よい形状をしているとは言い難いパターンも存在するのです。黄金比の部分があるからといって、それが素晴らしいものであるとは限らないという話ですね。

例として、図を用意してみました。

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長さ比率は1:1.6だけど面積は同じ

上図の2つの四角形は一見すると黄金比の関係性に見えます。しかし、実際の所2つの四角形の面積はほぼ同じです。

なので、この2つの図形の関係性は部分的に見ると黄金比であるかもしれませんが、美しい比率の関係性とはいい難い部分があります。つまり黄金比ではあるけれども造形的には、あまりよろしくない状態であると言えます。長さだけを見ていると、最適な比率関係であるかどうかというところにまで考えが及ばない可能性もあるという話です。

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長さ比率と量の比率が良好な例

↑そこでこのように、2つの量の関係性で見ることで、最適な比率関係を判断したり作り出したりすることがやりやすくなるってわけです。

故に、「量で見る」「量を感じる」ということが非常に重要なのです。

部分ではなく、少し引いて大きな視点で「量」を感じることで、比率の関係性のおもしろさもより感じることができるでしょう。

空間

「空間」とは、その名の通り対象物以外の何もない部分のことです。それを美術用語的には「空間」と呼びます。

絵画や写真の場合の空間とは「背景」のことを指す場合が多いです。もっと突き詰めていくと、奥行き感や前後感の話にもなってくるんですけど、ここでは平面作品の奥行き感や前後感については考えないことにしましょう。(説明が複雑になってくるので。)

例えば、非常に構図の良いイラストがあったとしますよね。そんでもって、このイラストの背景(空間)をここまで説明してきた要領で様々な角度から観察すると、黄金比に近い比率になっていたりする確率が高かったりするんですよね。

つまり空間の比率関係で構図の良し悪しが決定すると言っても過言ではないということなのです。

平面だけではなくて、立体物・・・例えば人体の彫刻なんかの場合は、脇と腕との隙間や顎と胸部との空き具合とか、そういう微妙な空間もけっこう大事だったりします。その空間すらも彫刻家は作品の一部と考えて制作をしているはずですから。

また、もっと大きな話で言うと彫刻が置かれている部屋の形とか状況とかの話にもなってきますね。立体物の空間は、360度いろんな角度、位置から考える必要があるので非常に要素が多いです。本当に複雑です。

平面にしても立体にしても、作品だけでなく、その周囲の空間まで比率に関する考えを巡らせるためにはそれなりに練習が必要でしょう。

コツとしては、空間は「長さ」と「量」を両方使って観察していくとわかりやすいかもしれません。その作品の特徴的な部分同士を繋いだ2点間の距離や、背景の形状と面積(体積)を感じながら観察をします。

そして、いろいろな角度から見て、多くの主要な箇所で1:1.6くらいの量バランスがあると、非常に美しく心地よい形の造形物を作り出すことができます。

作るときだけでなく、作品を鑑賞するときも、空間から見ていくと新たな発見があるでしょう。空間をメインとして作品鑑賞をするだけでも十分に楽しめると思います。

均一な空間バランスはつまらない

空間の比率の重要性を示す例として、下記の写真を用意しました。以前どこかで撮影したシンプルなタンポポの綿毛の写真です。

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ど真ん中の構図

↑まず、良くない例として、このど真ん中に綿毛が配置された構図を見てください。

これ、写真的には「日の丸構図」とか呼ばれている構図の典型的な例です。まあ、日の丸構図の全てがダメってわけではないですが、少なくともおもしろい構図であるとは言えませんよね。

で、これがどうしてつまらない構図に見えるのか?その理由は、空間の量の比率を見ることで理解できるでしょう。

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空間の量が左右で同じくらい

↑日の丸構図の写真は左右の空間の量がほとんど同じです。だから非常に退屈で詰まったような印象の作品になりやすいです。これは、今回は(用意しやすかったので)写真で例を作りましたが絵画でもデザインでも書道でもなんでも同じことが言えます。

こういう時は写真を少しだけトリミングして、中心からずらしてやると良いでしょう。

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トリミング後

左右の空間バランスの変化がある方がスッキリとした印象の構図に見えてきます。

色分けすると、空間バランスの変化がわかりやすいでしょう。

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左右の空間の量に変化が生まれた

↑日の丸構図の綿毛よりも、こちらのほうがなんとなくスッキリと見やすい雰囲気の写真に見えるのではないでしょうか。

ものを作る時、平面でも立体でも、ものの周囲を取り巻く空間は非常に重要です。空間バランスが均一すぎる印象が出てしまうのは造形的には最悪なので、少なくとも空間バランスに変化をもたせることを意識する必要があります。非常に窮屈な印象を見る人に与えてしまうでしょう。

で、空間バランスに変化をつけるときに、それが黄金比を使ったものであれば、なおのこと美しい印象のものになるケースが多いでしょう。

一応断っておきますが、この綿毛の写真に関して言えば、均一な空間が良くないという説明のために紹介しただけのものです。なので、トリミング後の空間バランスは黄金比的ではあるけど厳密な黄金比ではないかと思います。しかし、もっと緻密に計算して黄金比をうまいこと様々な箇所に埋め込むことができれば、もっと洗練された印象の構図の作品ができると思います。

空間の量の変化やその比率を感じ取れるようになると、今までおもしろいと思わなかったものが、おもしろいと思えるようになるかもしれません。僕はこの感覚が理解できてから、一見すると謎な抽象絵画や、幾何形体で構成された彫刻などを見るのが楽しくなりました。

複合的で複雑な比率

「長さ」「量」「空間」という、3つの方向性から対象物を観察することが、黄金比やその他の心地よい比率を見つけ出す際の基本的な考え方です。

誰にでも理解しやすいように、ここまでのところまでの説明では、なるべくシンプルな例をあげながらやってきたつもりではあります。

しかし、現実問題としては、自然物でも人工物であっても非常に複雑にこれらの要素が絡み合って、ものの形は成り立っています。

基本的な考え方は1.1.6という比率を見るだけというシンプルな手法で全然大丈夫です。ここまでじっくりと読んでくれた方はなんとなく察しがつくと思うのですけれども、1つの部分だけの比率だけを判断するだけでは、ものの良し悪しは見えてこないんですよねえ。

例えば、先程のハシビロコウの写真1つでも、もっと詳細に見ていくと以下のような感じになっていきます。

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重要そうな箇所の長さと量の線を適当に思いつくままに描いてみました。

うん!わけわからんよね。

ハシビロコウの写真一枚だけとっても、非常に多くの長さと量が混在しています。そして、それらの比率計算を1つ1つやっていくなんてのはとてもじゃないけど大変すぎます。

まあ逆にいうと、これだけでもいろんな比率の楽しさが隠されているということも言うことが出来ます。しかしながら単純に2〜3箇所の長さや量を比較しただけではものの良し悪しの本質は見えてこないということでもあります。

少し話が逸れますが、僕は黄金比だけが最適な比率であるとは思っていません。詳細に対象物を観察していくと、黄金比も見つかるけど黄金比とは違った比率もでてきたりして、それらが様々な箇所で関係しあっているのが感じ取れることが非常におもしろいです。

何が言いたいのかというと、こんなに複雑に多くの要素が存在しているものをいちいち定規で計って見たり作ったりするのは不可能だと言うことです。時間をかければ可能かもしれませんが、それはとんでもなく楽しくない作業になってしまうでしょう。

そこで重要になってくるのが、感覚的に比率を感じること。訓練をすることで、パッと見ただけで複雑に絡み合った比率の良し悪しを感じ取ることが可能になってきます。

黄金比とは、簡単な数式で自然界の現象を説明することが可能だという、非常に数学的な理論です。で、その数学的な理屈を感覚レベルで感じとって表現することができるのが、芸術家という人種なのだと思います。

もちろん経験を積めば誰でもできるようになる、単純な考え方であると僕は思います。コツが分かってくれば、展覧会とかに行ったときに作品の部分部分の比率を比較検討していくというのも楽しみ方の1つとなってくるかもしれません。少なくとも僕はそういう感じで他人の作品を眺めることがあります。

と、そんな感じの観察方法で対象物を観察すると黄金比を見つけやすいでしょう。

黄金比の生み出すための方法

自分で何かを作ったりデザインをしたりする際に、自分自身の手で黄金比を生み出すための方法についても少し書いていきます。

と言っても、基本的にはここまでに書いたことを制作時に実践していけば良いという、ただそれだけの話です。「長さ」「量」「空間」を意識しながら、比率がおかしい箇所は修正を加えつつ作業するというような考え方で問題ないでしょう。

ただ、自分の作品は非常に主観的になりがちですよね。訓練を積まないと自分の作っているものの問題点と言うのはなかなか見えてこないものなのです。なので、作りながらもいろんな方向性から冷静に比率を観察することが非常に重要になってきます。

ただ、おそらく最初はそうそううまくはいかないでしょう。理屈と考え方を理解していても、自然な比率のものを作り出すためにはそれなりに経験が必要です。

まあ言ってしまえば、練習を繰り返して感覚を覚えていくしかないよね!という話です。結局のところ、難しい理論とかを知っていても、実際にそれができるようになるためにはそれだけの練習するしかないでしょう。

てなわけで、そんな話を前置きとしておいて、ここからは黄金比を始めとして最適な比率関係を判断して作り出すための補足説明的なことを少し書いていきます。

練習方法の例

黄金比を自然に生み出すための練習法はいろいろと考えられます。

僕自身は、美術予備校生だった頃、「構成」する系の課題が苦手でした。その詳しい内容はここでは語りませんが、端的に言ってしまうと、気持ちのよい空間を作り出すことが苦手でした。それは今になって思えば比率関係を最適化することができなかったってことなんですよね。

そこで、それを解消するために、課題とは別で、毎晩、スケッチブックやクロッキー帳に絵をひたすら描くことにした時期がありました。絵と言っても一枚一枚は数分くらいの短時間で描けるものです。具象的なモチーフはあえて避けて、絵の具を適当に飛ばしたり、筆で殴りつけたり、紙を濡らしてインクを垂らしたりとか、勢い重視で描いた抽象画みたいなものが多かったです。

ただ、勢い重視で描いていたけれども、空間とその比率だけはなんとなく意識しながら描きました。そして、絵の具が乾いて完成した後は自分の描いたものを眺めながら「ここはいい感じの空間を感じる」とか「こっちはなんかダメだ」って感じで分析をします。

抽象的な雰囲気の絵を描いたのにも理由があって、それは比率関係が良い感じになっていないと絵画作品として成り立たないからです。だから、単体で意味のあるモチーフは描かずに、それぞれの要素の関係性だけで成り立つような習作を量産しました。

そんな感じのことを繰り返していき、気がつくと飛躍的に構成力が上昇していました。この訓練のためにスケッチブックやクロッキー帳は15~20冊かそれ以上とか消費したと思います。訓練なので安い紙のスケッチブックで問題ないです。でも、安い紙ばかり使っていると飽きるので、たまに少し高めの画用紙にドローイングしたりもしました。(本当は訓練に使った大量のスケッチブックとかも写真を撮って見せたかったけど、量がすごくてホントに邪魔だったので全部捨ててしまいました。)

こういうのはとにかく数をこなすことが大事です。内容的にはそれぞれの気質に合わせてなんでも良いと思うんだけど、おすすめなのは描きこむ感じの絵ではなくて、少ない時間でたくさん描ける感じの絵の方が良いです。

今の時代だったらiPadとかの有料お絵描きアプリでサクッと描けば、画材も紙も使わなくて済みますよね。ホント良い時代になったよなと思います。

  • 短時間で描ける絵にすること
  • 画材はなんでも良い(デジタル可)
  • モチーフは抽象的な形体とかがおすすめだけど、何でも良い
  • 勢いで描くくらいで良い
  • 比率は短時間の間に最大限意識すること
  • 継続的に大量に描くこと
  • 描き終わった絵はあとで自己評価すること

これは僕が経験上一番効果があったやり方です。ですが、人によって他にもいろいろと良いやり方があると思います。

もしもこれを読んで心地よい比率を判断するための訓練をしたいという人がいたら、いろいろと試行錯誤して自分に合ったやり方を見つけるのが一番だと思います。(精神的な)負担なく、楽しくやれる内容であれば、それなりに多くの数をこなすのも苦にはならないでしょうから。

パズルが合う瞬間を見つける

先程も書いたように、比率というのは非常に複雑に絡み合ってバランスの良い空間を生み出している存在です。なので、こっちを黄金比で意識しながら制作していたとしても、気づいたらあっちはつまらない均等なバランスになっていた・・・みたいなことを繰り返すことになります。

比率の関係性と言うのは本当におもしろいもので、1つの箇所を動かすと、それだけで関係性を持っている別の複数の箇所の状況も刻々と変化してしまいます。自分の能力で見つけられる範囲だけであっても、辻褄が合わない箇所が大抵の場合存在して、それを解消しようとしても別の箇所で問題が出てきてしまうのです。

だけど、試行錯誤しているうちに全ての条件が整う、奇跡のような状態が突然あらわれる瞬間があるはずです。これが偶然でもいいからできてしまったら、この感じを忘れないようにしましょう。

そして、この絶対に合わなかったパズルのピースがバチッと合ったような瞬間を何度も体験することです。そうやって訓練を積み重ねていくと、自然と黄金比などの心地よい比率を意識して作品制作をすることができるようになるはずです。

もっというと、最適化されていない比率の部分があると違和感を感じるようになります。「うわっ!この比率気持ち悪い!!」とか思うようになります。

この感覚を持てるようになれば、作品作りに黄金比などを自然と使うことができるようになるでしょう。

黄金比だけが全てではない

黄金比は、「美しい」ということで最も有名な比率ですが、実際問題として黄金比だけが最適な比率ではないと僕は考えています。

この記事の前半にも書いたけど、白銀比という比率もありますよね。これも、非常に心地よい感覚を与えてくれる比率であると思います。

おそらく、最適な比率と言うのは、表現したいものの目的によって変化してくるものなのだと思います。

黄金比は確かに「美しい」です。

しかし、美しいだけが造形物の魅力ではありません。特に今の時代は美術というものの価値が美しさ以外にも求められるようになったように、価値観も多様化しています。

例えば「かわいい」という感覚を得るための比率は、黄金比の1:1.6よりもどちらかと言うと1:1や1:2に近い比率だったりするのではないかと思います。

時には「気持ち悪い」という感覚も必要になるかもしれません。その場合はあえて黄金比から極端に遠ざけて変則的にした比率を複数採用したほうがキモく見える造形ができるかもしれません。

なので、黄金比が至高の比率というわけではなくて、作品を作る時は目的に応じて黄金比を基本にしつつもいろんな比率が混在しているのもありだよね・・・と、まあ最後にそんな話をしたかったという話でした。

まとめ

以上が僕の黄金比についての考え方でした。

基本的に、黄金比が使われているものを見つけ出す事自体はそれほど難しいことではありません。むしろ、考え方さえわかっていれば簡単です。ただし、詳細に観察するとなると複雑になりすぎて頭がパンクするかもしれませんけど。

また、見つけるのはそんなに難しくないとしても、自分で作り出すのはそれなりの量の訓練が必要でしょう。難易度の高いパズルのピースを合わせていくような作業になるはずですから。

途中、感覚的な表現しかできないような部分もありましたよね。どうやって伝えたらいいんだろうなあといろいろと考えたのだけれども、ある程度までは言葉や図等で伝えらえるとしても、最終的には感覚的にやっていくしかない部分だよなあ・・・というのが正直なところです。でも、そうやって苦労して難解なパズルのピースがハマった瞬間は脳汁が出ます。

また、そういう難しさを知っているというただそれだけでも、自然物や他人の作った作品を見て黄金比を見つけた時は、知らなかったときよりももっと楽しく感じられるはずです。

ただ見るだけの側と、作る側の両方の視点からこの記事を書いてみたのは、両方の立場を知っていると黄金比に対する考え方がまた違ったものになるかなと考えたからだったりします。見るのも生み出すのも基本は同じですけどね。

てなわけで、ときには比率マニアみたいになって作品鑑賞をすると、今までに気づかなかった比率バランスのおもしろさを発見できるかもしれませんよ。

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