新しい作品の制作を始める前に、アーティスト(芸術家)として考えるべきことをまとめてみたいと思います。
アート以外に本業があって、趣味で作品を作るだけならば、好きなように好きなものを作ったり、描いたりすれば良いだけです。しかし、それを「仕事」としてやっていこうとする場合は考え方をもっとシビアにしなくてはなりません。だからこそ、その事について頭が痛くなるくらいにまで悩むし、常に作品のことについて考えを巡らせておく必要もあります。
特に今までの作品シリーズとは異なるタイプの、「全く新しい作品」にチャレンジしようとするときはかなり大変です。一から一つの作品を完成させていくには、非常に多くの要素をクリアしていかなくてはならないからです。そうやって、一つ一つ組み立てながら物事を深めていかないと、レベルの高い作品を生み出すことはできませんからね。
そもそも、「アートとしての価値」がないと、せっかく作った作品でも、存在する意味がありません。その価値を添加するのが、アーティストや芸術家、もしくは造形作家などと呼ばれる人種の役目というわけです。
新しい作品の制作をする前に考えておくべきこと
新しい作品の制作の前に考えておくべきことは、大きく分けて以下の5つです。
- コンセプト
- 立体か平面か
- 素材と技法
- デザインとサイズ
- 納期や期限
この5つはわかりやすいように番号をつけてはいますが、実際に考えを巡らせていく中での時系列的には前後することもあります。もしくはこれらを複合的に考えなくてはならない場合も出てくるでしょう。
これら全てに気を使って制作をするのはかなり難しいことだったりします。でも、作品を作っていきたいのならば、最低限必要なことでもあるのです。
1. コンセプト
まずは最も大事な「コンセプト」についてです。
「コンセプト」と言うのは簡単に言うと、「作品に含ませるメッセージ」だとか「作品を作る目的」の事を指します。言ってしまえば、作品の根幹の部分というわけなのです。コンセプトがしっかりしていないと、それだけで非常に内容の薄い作品になってしまうので、これは慎重に決定していく必要があります。
また、コンセプトは適当に自分の好みのものを決めてしまえば良いというわけでもありません。もちろん、作家の好みだとか趣味嗜好は作品に反映するべきだとは思います。しかし、それを踏まえたうえで、その作品が「アート作品」として成立するための条件を必ずクリアする必要があるのです。
例えば、「花が好きだから」という理由で、ただの花の絵を描くだけでは、それはただの「絵」です。美術作品ではあるかもしれないけど、アートであるとは言えないのです。同じく花の絵を描くとしても、それを通して見る人に何を伝えたいのかを明確にすべきなのです。
そしてそれが、世の中に影響を与える可能性のあるメッセージを含んでいると、なお良いと思います。いや、それが存在しないと、アートとは呼べないのだと思います。
なぜなら、アートというのは、社会性や公共性が重視されるべきだからです。そうでないと、アート作品を作る意味というものがなくなってしまいますから・・・。
アートとは、他人の共感と、社会的影響をを与える可能性があるものであるべきです。
自分自身の経験に基づいた「説得力」と、鑑賞者の「共感」を得ることができるであろう内容でないとダメなのです。
ただ単に美しいだけの彫刻や絵画は美術作品ではあるけれども、アートではありません。そこの部分がはっきりしていないと、レベルの高い作品を生み出すことは出来ないのです。
2. 立体か平面か
コンセプトが決まったら、その作品の具体的な部分を考えていかなくてはなりません。
最初に考えるべきなのは「立体」なのか「平面」なのかという点だと思います。簡単言うと「3D」か「2D」かということですね。これ、実際に作品を作っている人間からすると、けっこう重要な問題だったりします。
ちなみに、僕の場合は立体作品を専門に作っているので、平面作品を制作することは滅多にありません。でも、人によっては両方とも作っている人はたくさんいるし、いろいろと考えていくと、意外と難しい問題なのではないかと思っております。
というのも、双方に有利な点と不利な点があるからなのです。
- 平面作品の特徴
- 壁に掛けるだけでOKなので展示できる場所が多い
- 比較的制作が楽
- 作品を保存しておく場所を取らない
- 買ってもらいやすい(飾っておく場所があるから)
- 視覚的なインパクトが弱い
- 立体作品の特徴
- 展示するために工夫が必要(展示台等)
- 制作するために特殊な技術が必要な場合が多い
- 作品を保存しておく場所を確保しにくい
- 買ってもらいにくい(飾っておく場所がないから)
- 視覚的なインパクトが強い
なんだか、こうして見ると平面作品の方がメリットが多い気もしてしまいますね。
絵画などの平面作品は平べったいので、大きな作品であっても飾ったり収納したりするための場所を確保しやすいのが良いところです。これは日本の狭い住環境の影響が大きいです。また、制作の難易度も(ものによるけど)基本的には平面の方が簡単です。何しろ絵の具が使えればなんとかなる場合が多いですから・・・
一方、立体作品は、作る時に必ずある程度のテクニックが必要になってくるので、まともに作品と呼べるようなものを作ることができるようになるまでには、それだけの訓練が必要です。それに、置く場所がないという理由で、お客さんに購入されにくいという特徴もあります。
以上のような理由から立体作品をメインで作っているアーティストの数は少なかったりします。以前友人に「平面も作ったら?」と言われてしまったこともありました。まあ、結局あんまり作ってないのですけどね!
しかし、立体作品にも良い点があって、それは展示した時のインパクトが強いという点です。やはり平面作品は、世の中にたくさんの数があるからこそ、誰しもが見慣れているものだったりするからです。
以上のような、メリットとデメリットを考慮して、どんな形状の作品を制作すべきか考える必要があるでしょう。
3. 素材と技法
次にどのような技法や素材を使用して、作品を作っていくべきかと言う話です。
これは、「日本画家」とか「金工作家」とかいう感じで、アーティストによっては固定されている場合もあるかと思います。しかし、新しいタイプの作品にチャレンジするという意味では、どんな「素材・技法」を使って作品制作をするのか?ということはかなりの重要事項でしょう。
なぜならば、作品を作る技法そのものがコンセプトとなってしまう場合も十分にありえるからなのです。
最近僕が作っている作品シリーズで、「電子パーツをハンダ付けして作る作品」があります。これは、その素材と技法そのものがコンセプトの一部であると言う側面があります。
つまり、どんな方法で制作を進めていくのか?ということも、作品の価値を左右する、重要な要素の一つというわけなのです。
作品の内容に合わせて、作り方と材料を決定して、作品を作っていくことが重要なのです。
4. デザインとサイズ
コンセプトや技法・材料が決定したら、デザインを決めなくてはなりません。作品に内包されているメッセージを最も効果的に伝えることができる造形を、平面作品なのか立体作品なのかということも考慮して、考えていくのです。
作品の直接的な印象につながってくる部分なので、コンセプトと合致しているかつ、ビジュアル的にもかっこいいデザインを考えていくべきです。
それと、大事なのが作品のサイズです。作品の大きさによっては、作るのがすっごく大変になってしまうものですからね〜。大学時代にお世話になっていた、とある教授が言っていたのですが、作品サイズを2倍大きくすると作業は4倍大変になる・・・とのことでした。
しかし、ある程度のサイズにしないと、作品のビジュアル的なインパクトも弱くなってしまいます。でも、だからといって作品をあまり大きくすると期限に間に合わなかったりするかもしれないし、展示するときに大きすぎて展示すること自体が出来ないということにもなりかねません。
色んな要素を加味して、調度良いサイズ、適切なデザインを考えるべきでしょう。
5. 納期や期限
最後に、作品を完成させる「タイムリミット」についてです。
我々は、作品を作ったならば、大抵の場合どこかに出品をすることになります。普通だと「個展」や「グループ展」などの展覧会ですね。当然なのですが、作品の搬入の日までに作品を完成させて、展覧会場に運び入れることができる状態にしておく必要があるのです。
また、コンペなんかに提出する場合もあるでしょうね。その場合はその期限までに、作品を完成させて書類や資料を添えて、指定の方法で送ったり、もしくは直接搬入したりします。
やはり、どんなジャンルのアーティストだったとしても、プロとして活動していくとなったならば、納期を守るというのは当然必要なことです。なので、その納期に間に合わせるためにいろんな工夫が必要不可欠なのです。作業効率を良くして制作を短時間で終わらせるようにしたりとか、作品の提出期限がわかっているのならば、それに間に合うように計算して作品のデザインをしたりとか・・・ある程度の打算的なことも必要になってくるでしょう。
また、展覧会に出品するとなったら、そのために、制作以外にもいろいろとやっておくべきことが実はたくさんあるのです。例えば、作品の値段も決めなくちゃならないし、出品リストも作成する必要があります。また、展示会場にもよるのですが、立体作品の場合は展示台を自分で用意しなくてはならないかもしれません。平面の場合は額装をしなくてはならないかもしれません。
それらの、作品制作以外の「余計なこと」も含めてのタイムリミットを計算して、「コンセプト」「平面or立体」「技法」「素材」「デザイン」「サイズ」などの条件をクリアしたうえで作業にとりかかるのです。特に、全く新しいタイプの作品を展示会に間に合わせようとした場合には、かなりスケジュールを綿密に予想しなくてはならないから、大変なのですよ。
まとめ
以上が、作品を作っていく時に考えるべきことです。非常に簡単にですが、まとめてみました。
芸大に通っていた学生時代とかに比べると、現在は非常に忙しいです。当時と比べると明らかに制作に集中できる時間が少なくなっていますからね〜。作品を作っている人って、ほとんどの人がそうだと思うのですけど、作品を作っていれば良いというだけではないのです。生活のためにも、様々な雑務をこなしながら作品制作をするのです。
上記で書いた5つの事を意識しつつ、時間を節約しながら効率よく作品制作をしていかないと、とてもじゃないけどいろいろと無理なのですよ。
また、今までにない全く新しい作品を生み出すときには、作品に必要なたくさんの要素をいい感じに組み合わせて、うまいこと辻褄を合わせるということが相当に難しいです。コンセプトとその他の多くの条件が合致しないと、そもそも作り始めることすら出来ないわけですからね。パズルのように多くの要素を組み立てながら、思考を巡らせるのです。
いつも、何か新しい作品のアイデアはないかと、暇があれば考えているのですが、その殆どは使えないアイデアとしてボツにします。全てのピースがうまくあてはまって、自分の納得のできるレベルの作品アイデアを生み出すことは非常に難しいことなのですよ。
余談
実は、今月末に引っ越しが控えておりまして、それが片付くまでの間はまとも作品制作をすることが出来なそうです。なんだかな〜・・・という感じではありますが、そういう時期があるのは仕方のないことだし、制作以外でもいろいろとやるべきことは多いので、そちらを重点的にやっていくことにしていきます。
僕は事情があって、最近までは作家としては休業していたような状態でした。一時期は全く作品を作ることが出来なかったのですよね・・・。現在は復帰に向けて活動していくぞ!と気合を入れているところなのです。だから、先ほど書いたようなタイムリミットは今は特にないので、焦らずに自分のペースでやっていくことにしようと思います。
引っ越しが落ち着いて、作品制作やその他の活動をバリバリと再開するときのためにも、自分の考えを整理するためにも作品制作の考え方について書いてみました。