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【彫金】結婚して8年経ったので18金でちゃんとした指輪を自分で作った

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18金結婚指輪を作ってみました。

いや別に「突然ですが結婚しました」という報告とかそういう話ではないですよ。むしろ、今年の3月で結婚して8年経過して、現在9年目に突入しているところですからね。

結婚指輪というのは、普通だと結婚式とかでお互いに交換するものです。でも、僕たち夫婦は結婚式もしなかったし、当時は学生終わったばかりでお金もなくて高価な金を使うのはなんだか気が引けるし・・・という感じで、ちゃんとした指輪を作らなかったのですよねえ・・・

一応、役所に書類を提出したすぐ後に、銀に金ケシ(伝統的な金メッキ技法)をした指輪を作ったのですが、せっかくの結婚指輪ならばちゃんと「金」で作りたいところです。

てなわけで、結婚8年経った節目に18金でちゃんとした結婚指輪を今さらになって作ってみたというわけなのです。

で、作るついでに指輪の制作工程の写真動画も撮っておきました。特に彫金の初心者の方に参考になればと思うので、指輪の作り方をできるだけ詳しく解説していこうかと思います。なるべく誰にでも理解できるように補足説明をはさみながら解説していきます。(わかりにくい用語を使っていたら申し訳ありません。)

内容としては、かなりマニアックな技法や金属の話になるので、少しわかりにくいところもあるかもしれませんが、動画と合わせて見てもらえればイメージをつかみやすいかと思います。

<目次>

リングの作り方について詳しく解説する

指輪制作動画について

youtu.be

【彫金】18金で結婚指輪を自分で作ってみた - YouTube

↑こちらが撮影した動画を編集したものです。長さは27分と少しで、制作工程の解説入りです。撮影した動画だけで数時間くらいあったので編集大変でした。

今回は、両手を使っての作業が多く、うまく写真を撮れない作業が多かったです。ですので、ずっと動画撮影をしながら作業をして、撮影した動画のスクリーンショットをブログに載せようと当初は思っていたのですが、それだけだともったいないので編集してYoutubeにもアップしてみました。

どうしても、ブログの文章と写真だけだと作業のイメージを伝えにくい部分があります。その点、こういう彫金みたいな地味で細かい作業を見てもらうには動画は良いですね。作業工程の大まかなの流れも動画の方がわかりやすいかと思います。

彫金で作る指輪

結婚指輪なので2つの指輪を同時進行で作ります。

基本的には彫金の技術をメインに使って作ります。キャスト(鋳造)などはしません。「※地金(じがね)」を溶かして、指輪の形に丸めてロウ付けして削って磨くという、ものすごく基本的で王道な作り方ですね。

指輪の形状的にも「甲丸リング」と呼ばれる、指輪の断面がかまぼこ型に近い形状になっている基本的なものを作ります。結婚指輪でよくあるタイプのデザインですね。

それ故に、ロウ付け、ヤスリがけ、磨きなど彫金の基礎的な技術の練習にもなるので、甲丸リングを一つ作るだけでもものすごく勉強になります。彫金やジュエリー制作の初心者の人は是非一度作ってみることをおすすめします。

※加工する金属材料のことを地金(じがね)と言います。

炭研ぎと胴摺りについて

今回作る指輪はちょっと変わったところとして、最終的に「炭研ぎ」「胴摺り」という技術を使って仕上げを行います。

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炭研ぎとは、炭を使って金属の表面を研ぐ技法のことで、胴摺りとは炭粉を使って磨く技法のことを言います。漆芸などでも使われる伝統技法ですね。

炭研ぎをした後に丁寧に胴摺りすると、均一なツヤ消しっぽい仕上がりになります。非常に上品で美しい雰囲気のある表面処理技法です。

伝統的な金属工芸の仕上げではよく用いられる技法の一つですが、作家物以外の市販のジュエリーではまず見ることのない技法です。

甲丸リングの作り方を最初に学ぶときは、リューターのシリコンポイントで磨いて仕上げにバフがけしてピカピカ仕上げにすることが多いかもしれません。ぶっちゃけて言うと、光沢仕上げにしてしまう、一般的なやり方の方が楽ちんです。

だけど、今回はせっかく自分で自分たちのために作る指輪なので、あえて面倒な炭研ぎや胴摺りをして仕上げることにしました。

甲丸リングを作るわけなので、形状的にはものすごくスタンダードな指輪なのだけど、こういうところをこだわることで少しはオリジナリティを出したいですよね。

作業工程

ここからは動画の作業工程に沿って作業工程の解説をしていきます。

1. 18金のインゴットを作る

地金を用意する

まず、指輪の材料を用意しなくちゃなりません。

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と言っても、当時の金銭感覚だとそれでも十分に高価で、せっかく作品制作に使うために買った金の地金を自分達で使う指輪の為なんぞに使うのは、なんとなくはばかられたんですよねえ・・・

ちなみに今回使用する18金は金が18に対して、銀が3、銅が3の割合で混ぜられたものです。(18金は銀や銅などの割り金の量や種類によって色が違います。)

この18金の地金を使用して、指輪を作る材料として使いやすいように、18金を溶かして棒状のインゴットを作ります。

用意した小指サイズのインゴットをそのまま伸ばして指輪にしていくこともできるのですが、うちにある圧延ローラーのパワーはあまり強くないので、溶かし直してもう少し細めの棒にしてしまったほうが効率が良いと考えました。それに、もう一回しっかりと溶かし直して棒状のインゴットにしたほうが割れにくい良い地金が作れるはずです。

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重さを計ってみたら30gくらいありました。

実際のところ、指輪で必要な地金はこんなに大量に必要ありません。ピッタリの量で2つの指輪を作るとして、せいぜい10g程度です。

しかし、18金の地金は圧延が難しい金属です。運が悪いとこの後の作業で圧延ローラーで伸ばしたりする過程でひび割れたりすることがあります。ですので、ある程度多めの18金で大きめにインゴットを作っておけば、使える部分だけ良いとこ取りすることができます。

溶解についての説明

用意した18金インゴットを、使いやすい棒状のインゴットにするために、火床で溶解する作業をします。

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下準備としては↑のような感じにセットしてガスバーナーの炎の熱で溶解していきます。

基本的な手順としては「皿チョコ」に溶かしたい地金を入れて、「ガスバーナー」で溶かし、手前に置いてある鉄製の「あけ型」に溶かした18金を流し込みます。

18金に限らず地金の溶解では、「溶けた地金が酸化するのをいかに防ぐか?」というのが重要なテーマです。なので、溶かす前に「硼砂」を入れたり、溶けたら「炭素棒」で地金をかき混ぜたりします。

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溶かした地金をあけ型に流し込む際にも、バーナーの炎で還元状態を作って溶解させつつ酸化を防ぎつつ流し込む必要があります。(バーナーの炎は、赤い火は「酸化炎」、青い火は「還元炎」などと呼ばれていて、還元炎の状態で、程よい距離で炎を地金に当てて温めるようにすると良いです。)

とまあ前置きの説明としてはそんな感じで、実際の作業を見ていきましょう。

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まず、あけ型をバーナーで温めます。

かなりガッツリと、あけ型から薄っすらと煙が出てくるくらいにまで温めた方が地金の流れが良くなるので、しっかりと時間をかけて温めます。

あけ型が十分に温まったら、皿チョコに入っている18金を軽く温めていきます。

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地金がある程度温まったら、硼砂を入れます。以前に何度か使った皿チョコを使うのであれば、前に使った硼砂が多少残っているので、薬さじの先っちょくらいの量で大丈夫です。(初めて使うときには硼砂を皿チョコに事前にまぶしておく必要があります。)

ある程度温めてから硼砂を入れる理由は、温める前に硼砂を入れてしまうと、炎の熱と風圧の勢いで硼砂が飛び散ってしまうからです。地金が少し赤くなるくらいに温めてから硼砂を入れれば、皿チョコに入れた瞬間に硼砂が溶けて皿チョコや地金にくっつくので、飛び散りを防ぐことができます。

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硼砂を入れたら、本格的に地金を温め始めます。このとき、炭素棒も一緒に温めていきます。

炭素棒は溶けた地金をかき混ぜるために使うのですが、炭素棒自体もしっかりと温めておかないと、地金が炭素棒にくっついたり地金の温度が下がってしまったりします。なので、地金を溶かしながら同時に炭素棒も温めておくことが必要なのです。

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地金が完全に溶けたら、炭素棒でかき混ぜます。ある程度長めにかき混ぜたほうが地金の状態が良くなるので、しばらくかき混ぜ続けます。特に、溶けた地金の表面にある酸化膜っぽいゴミみたいなものがなくなるまでかき混ぜ続けた方が良いでしょう。(1~2分くらい)

溶けた地金をよく観察して、いい感じになってきたら、あけ型に地金を流し込みます。

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皿チョコを大きなピンセットや火箸などで持って、あけ型の穴に一気に流していきます。このとき、バーナーの炎は当て続けます。

バーナーの火から出てしまうと、地金はすぐに固まり始めてしまうので、あけ型に溶けた地金を流すスピード感と思い切りは大事です。

実は、動画では流し込むときに少し躊躇してしまったせいで、皿チョコに地金が残ってしまっています。30gの18金を溶かすには、バーナーの火力が少し足りなかったのもあるかもしれません。(ちなみに皿チョコに残ってしまった18金は回収すれば、また溶かし直して使えるので問題ありません。)

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あけ型はクランプのような器具で挟んで固定してあるので、ヤットコ等でネジを回して取ります。 (あけ型はまだ熱い状態なので手で触ったらいけません。)

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なかなかきれいに棒状のインゴットが作れたと思います。これを元に、2つの指輪を作っていきます。

それと余談ですが、本当は甲丸リングを作る時は丸棒ではなくて角棒が作れるあけ型の方が良いのですよね。後で、どうせ角棒にしなくちゃならないからです。だけど、角棒が作れるあけ型は持っていなかったので、諦めました。

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インゴットの端っこにできたバリは金属用の切狭で切り落としておきます。

2. 地金を締める

あけ型に流し込んだ直後のインゴットは、非常に脆いような状態になっています。例えるならばスポンジのような状態です。

なので、このまま圧延ローラーにかけて地金を伸ばしていこうとすると、ひび割れしてしまう恐れがあります。

そこで、地金を締める(しめる)作業が必要になります。

金槌で叩く

地金を締めるには、インゴット全体を金床の上で金槌で叩きます。

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いろんな大きさの唐紙鎚。用途によって使い分けます。

使用するのは唐紙鎚(からかみづち)という種類の金槌です。地金を締める作業の時は、パワーが必要なので大きいサイズの唐紙鎚を使用します。

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インゴットを左手で持ちながら、指を叩かないように気をつけながら金槌で叩きます。

地金を締めるためには、全部の方向から叩く必要があります。例えば、直方体のインゴットを締める場合、上面底面側面という感じで6面をひっくり返しながら金槌で叩くわけです。

それと、今回は丸棒のインゴットを叩くのですが、この後の作業で四角い角棒にしていかなくちゃなりません。なので、地金を締めるついでに金槌で側面を4方向から叩いて角棒に変形させています。

焼き鈍し

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↑一度全面を叩き終わったら、「焼き鈍し(やきなまし)」という作業をします。

金属は、叩いたり曲げたりして変形させると、「加工硬化」して硬くなります。なので、そのまま作業を続けても非効率的な上に、無理にそのまま作業を続けてしまうと最終的には割れてしまうこともあります。

そして、焼き鈍しという加工硬化した状態を鈍して(なまして)柔らかい状態に戻す工程を踏む必要があるというわけです。

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焼き鈍しの方法は簡単で、バーナーで金属が暗赤色になるくらいまで炙るだけです。

細い針金のような材料を焼き鈍しする際には、バーナーだと均一に焼き鈍しするのが難しいので電気炉などを使用することもあります。

ただし、あまり温度を上げすぎて暗赤色どころか白っぽい色(溶ける寸前)とかまで温めてしまうと、逆に金属組織がもろくなって地金が割れやすくなってしまうこともあります。なので、程々くらいに温めることが焼き鈍しのコツだったりします。

3回繰り返す

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焼き鈍しをしたインゴットを再度叩きます。

そして、全体を叩き終わったら再度焼き鈍しをします。

基本的に、地金を締める作業は「金槌で叩く」→「焼き鈍し」の繰り返しです。地金の種類や状態を見て判断する必要がありますが、今回はこれを3回繰り返しました。

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酸洗い

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地金を締め終わったら、希硫酸に浸けて酸洗いをします。

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↑しばらく放置すると表面の黒い酸化膜が落ちてきれいになります。

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プラスチック製のピンセットで希硫酸の容器から出して、重曹を溶かした水に入れて一時洗浄します。重曹はアルカリ性なので、希硫酸を中和させることができます。

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重曹で全体を軽く擦って洗い流せば、酸洗い完了です。

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3. 圧延ローラーで伸ばす

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この18金の角棒が指輪に使える太さになるまで圧延ローラーを使って細く伸ばしていきます。

今回は断面が4mm×2mm程度の18金の角棒になるまで伸ばすことにしました。

角線ローラーで伸ばす

まず、圧延ローラーの溝のある部分に地金を入れます。この部分に地金を入れてローラーを回すと、断面が正方形の角棒を作ることができます。

圧延ローラーで断面が長方形の角棒をいきなり作ることはできません。なので、まずは断面が正方形の角棒を作り、その次にそれを潰すように伸ばして長方形の断面の角棒を作っていくというような手順になります。

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手回し式の圧延ローラーなので、側面についている持ち手のついているハンドルを回すことで地金を送ることができます。そして、圧延ローラーの上部にあるハンドルを回すと少しずつ上下のローラーの幅を狭めていくことができます。

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こうして、幅を狭めながら何度か地金を通していくと、徐々に目的に太さにまで伸ばすことができるというわけです。

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↑きれいな18金の角線になってきました。18金は、銀(シルバー925)などよりもかなり硬いので、それだけ力が必要なので地金を伸ばすのも大変ですね。

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ある程度圧延したら加工硬化して伸ばすことが困難になってくるので、焼き鈍しをします。

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焼き鈍し後は酸洗いをします。

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いい感じです。

先程も書きましたが、18金は伸ばそうとすると割れてしまったりする場合が多くて、伸ばすのが難しい金属であると言われています。でも、今回は特に割れたりもせずにきれいに圧延することができています。溶解してインゴットを作る作業や締める作業がいい感じにできたもかもしれませんね。

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特に問題はなさそうなので、このまま同じ作業を繰り返して伸ばしていきます。

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↑目的の太さまであと少しというところで、長くなりすぎて、酸洗いの容器に入らなくなってしまいました。仕方ないので、ここからは酸洗いをせずに圧延ローラーにかけていきます。

この段階であれば、表面に酸化膜がついていても特に問題はないでしょう。(見栄えは悪いけど。)

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更にもう少しだけ伸ばしたところで、ちょうど良い太さになったので角線ローラーにかけるのは以上で終了です。

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圧延によって加工硬化している状態なので、焼き鈍しをして次の作業にうつります。

地金を真っ直ぐにする

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ローラーにかけて焼き鈍しをした直後なので、地金が曲がってしまってヘロヘロの状態になっています。

次はこの角棒を4mm×2mmにするために、圧延ローラーの平たい方に入れていくのですが、この状態ではきれいに圧延することができません。

そこで、金床の上で木槌や金槌を使って地金を叩いて、真っ直ぐにする作業が必要となります。

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まず木槌で叩きます。木槌であれば、せっかく加工した地金が変形してしまう可能性は低いので、できるところまでは木槌で真っ直ぐにします。

しかし、木槌で叩くだけだと限界があります。木槌だけで18金みたいな硬い金属の棒を完全に真っ直ぐにするのは結構難しいんですよねえ。

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そこで金槌(唐紙鎚)も使って叩いていきます。まあ木槌だけでできるくらいの真っ直ぐさがあば、それで大丈夫っちゃ大丈夫なのですが、個人的には金槌も使ってしっかり真っ直ぐにしたい派です。

ただし、金槌で普通に叩いていくと普通に地金は変形してしまいます。なので、軽い力で均すように、そして金床から浮いている箇所だけを狙って叩くようにします。

こうして気をつけて丁寧に叩いていけば、この後の作業に影響が出るほどの変形をしてしまうことはないでしょう。

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↑とりあえずこのくらい真っ直ぐになっていれば良いと思います。

平たく伸ばす

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角線ローラーの方に通していたときと同じように、上部のハンドルで幅を調整しながら平たい方のローラーに地金を通していきます。

割とすぐに目的の太さになってしまいそうだったので、平たく伸ばす作業はノギスで計測しながら慎重にやりました。

数回、平のローラーに通したら厚さが2mmになったので、圧延作業は以上で終了となります。ノギスで計ってみたら横幅は少しオーバーしていて4.2mm×2mmだったのですが、まあ良いでしょう。

また地金を真っ直ぐにする

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焼き鈍しをしてから、先ほどと同じく、次の作業のために地金を真っ直ぐにします。

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真っ直ぐになりました。

4. 必要な長さに切る

次は2本分の指輪に必要なサイズに地金を切る作業です。

必要な長さの計算法

今回、9号(妻用)と19号(自分用)の指輪を作ります。

関係ないけど、昔、自分の左手の薬指のサイズは14号だった気がするのだけど・・・太った!?

とまあそんな感じでダイエットを決意しつつも、まずはこのサイズの指輪に必要な地金の長さを計算しなくてはなりません。

指輪を作るために必要な地金の長さは以下の計算式で算出することができます。


(リング内径+地金の厚さ)×3.14


9号の指輪の内径は15.67mm、19号の指輪の内径は19.00mm、そして地金の厚みは2mmです。この数字を当てはめて計算してみると・・・


9号の指輪→(15.67+2)×3.14=49.19…mm

19号の指輪→(19.00+2)×3.14=59.66…mm


・・・という感じになるはずです。

てなわけで、四捨五入して49.2mm59.7mmくらいの長さに地金を切っていきます。

糸鋸で切る

地金を切る作業には糸鋸を使います。

(後で微調整は可能ですが、)サイズをピッタリに、そしてスムーズに合わせたいので、なるべく正確に長さを計って切断していきます。

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定規で長さを計って・・・

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けがき針で引っ掻いて印をつけて・・・

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けがき針の印の場所を糸鋸で切ります。

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糸鋸で切ったばかりの状態だと断面が多少ガタガタしているので、仕上げにヤスリで断面を整えます。

それと、18金は高価な素材なので、なるべく正確に糸鋸→ヤスリの作業をしたほうがロスが少ないので良いですね。

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短くなったついでに、酸洗いをして表面の酸化膜を取り除いてきれいな状態にしておきましょう。

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これで指輪に使う分の地金を切り出す作業は完了です。

5. 刻印を打つ

さて、指輪用の地金ができたところで、早速リング状の形に加工していきたいところですが、その前に「刻印」を打つ必要があります。このタイミングで打っておかないと今回使う刻印だと、打てなくなってしまうのですよね。(後述しますが、リング状にしてからでも打つことができる刻印もあります。)

ちょっと調べてみたのですが、結婚指輪の内側に打つ刻印の内容はそこまで厳密にルールがあるわけではないようですね。お互いのイニシャルや結婚記念日、人によってはパートナーに贈る言葉みたいなのを打つ場合もあるようです。

というわけで、今回は刻印はスタンダードにお互いのイニシャル結婚記念日18金を表す「K18」を打ち込みます。ただし、イニシャルに関しては二人とも「T・M」で偶然共通で、ちょうどいい感じの「T・MIKI」という刻印を持っているので、それを使います。

というわけで具体的には・・・

T・MIKI 2010・3・17 K18

・・・という感じで刻印を打つことになります。

刻印

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「T・MIKI」と「K18」の刻印

↑刻印というのは、こういう感じのタガネに似た道具です。アルファベットやK18みたいな文字が刻まれてあって、これを金属に打ち込んで文字などを刻印するわけです。

「T・MIKI」と「K18」の刻印はあるけど、年月日の刻印は数字の刻印を一文字ずつ打っていく形になります。

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ちなみに、今回使う・・・というか所有している刻印は「」の刻印だけです。刻印には他にも「曲がり」と呼ばれる刻印もあってこのタイプの刻印であれば、リング状に加工された状態でも打つことができます。

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それと、彫金用のタガネや刻印を打つ場合「オタフク鎚」という小型の金槌を使います。

またもや少し余談ですが、オタフク鎚の柄の部分は自分で削って持ちやすいように加工してから使います。世界に一つだけの自分だけのオタフク鎚です。なので、他人のオタフク鎚を使わせてもらうとめちゃくちゃ使いにくかったりして困ることあったりします。

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刻印は今回は金床の上で打ちます。

もっと丁寧にやるのであれば「ヤニ台」や「彫刻台」と呼ばれる道具に固定して刻印を打つ場合もありますが、今回の場合はそこまでしなくても大丈夫でしょう。

テープで固定

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まず、油性マジックで地金の中心に直線を引きます。この線を基準にして刻印を打ちます。

次にテープで地金を金床に固定していきます。固定にはマスキングテープを使いました。

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地金の両端をマスキングテープで貼り付けて固定は完了です。簡単ですね。

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↑それと、固定とは別で、地金の中心より少しずれるくらいの感じでマスキングテープを貼りました。

これは刻印を打つ際のガイドになるテープです。刻印は、実際にやってみるとわかると思うのだけど、きれいに横一直線に打つのはすごく難しんですよ。上手い人ならばガイドがなくても毎回確実にきれいに刻印を打てるのですが、僕にはまだ無理です。

そんなとき、このテープのガイドに刻印を当てながら打てば、ずれたりせずに文字を打ち込むことができる可能性が高まるのでおすすめです。(ガイドを使ってもずれる時はずれるので、練習は必要です。硬めでエッジがしっかりしてるテープじゃないと逆にずれたりすることもあります。)

刻印を打つ

さて、準備ができたので早速やっていきましょう。

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左手の指先で刻印をガイドに当てながら固定して、オタフク鎚で程々の力で何度か打ちます。

このとき、左手の固定が緩くて何度からオタフク鎚で叩くうちに刻印が地金から浮いてしまうと、刻印が二重に打たれたりしてしまいます。そうなると、最初からやり直しということになるので、左手の固定には特に意識を集中させたほうがよいです。

こんな感じで一文字内終わるたびに刻印を一本ずつ変えながら「T・MIKI 2010・3・17 K18」と打っていきます。

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打ち終わったらマスキングテープを剥がします。

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指輪二本分刻印を打ち終わって、ティッシュに染み込ませた無水エタノールで油性マジックの線を拭き取って消せば完了です。

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↑刻印、まあまあきれいに打てました。

軽く削る

刻印を打った場所は少し盛り上がっています。このまま次の作業にいっても良いですが、このままだとせっかく打った刻印が(少しだけだけど)潰れてしまったりするかもしれません。

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なので、この盛り上がりはヤスリで軽く削っておきました。

6. ロウ付け

ロウ付けとは

次の工程は真っ直ぐな角棒の状態の地金を丸めてリング状にして「※ロウ付け」をする作業です。

(※ロウ付けは「ロー付け」や「鑞付け」などと表記されることもありますが、ここでは「ロウ付け」で統一することにします。)

早速ロウ付けしていきたいところですが、その前にロウ付けとはなんぞや?という話を簡単にしておきます。

ロウ付けとは、「ロウ」と呼ばれる融点の低い金属を溶かして流すことで金属同士を接合する技術のことです。

例えば、今回のように18金をロウ付けする場合は基本的には「金ロウ」を使用します。

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ロウは、ロウ付けしようとしている金属よりも融点が低いです。なので、バーナーで炎を当ててなるべく均一に温度を上げてやることで、ロウだけが溶けて、毛細管現象によってロウが隙間に流れます。

とまあ細かいことを省けば、以上のようなの理屈で金属同士を接合することができるい技術というわけです。

ロウ材には金ロウの他にも、銀ロウや銅ロウや真鍮ロウなど、いろいろな種類があります。そして、金ロウの中にも成分や純度の違うロウ材があって、状況に応じて使い分けます。

今回は簡単なロウ付け作業なので、金ロウは「K16 A」という比較的純度と融点が高めのロウ材を使用します。

参考:貴金属ロー材のご案内

金ロウは予め0.5mm角くらいの大きさに切狭で切っておきます。

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金ロウ(画像左)とフラックス(画像右)

ロウ付けには「金ロウ」の他に、ロウ付け用の「フラックス」を使います。

フラックスとは、ロウ付けの際に使う白いペースト状の薬品です。「酸化防止」「濡れ性の維持」「不純物の除去」という3つの効果があり、ロウ付けの際には非常に重要な役割を持つ薬品となっております。

また、ロウ付けをする際には、毛細管現象が起こりやすくするために、なるべくその接合面の隙間を少なくする必要があります。

逆に溶接の場合は、あえて隙間(開先(かいさき))を作っておく必要があったりしますが、ロウ付けの場合はできる限りピッタリと断面を合わせておくほうが強度が出ます。

というか、毛細管現象を利用してロウを流すわけなので、ピッタリと合わせておかないとそもそもロウが流れないこともあります。また、隙間が大きいとそれだけロウが大量に必要になるし、仕上がり時の強度も弱いものになります。

なので、ロウ付けでは隙間がほとんどないように接合面を正確にピッタリと合わせておく必要があるのです。

リング状にして断面を合わせる

てなわけで、前置きが長くなりましたが、ロウ付けの前の準備として、リング状に地金を丸めて断面をピッタリと合わせる作業をします。

この段階では、地金を真円に加工する必要はありません。それよりもロウ付けのために断面を隙間なく合わせることができればそれでOKです。

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地金を丸めるためには、「芯金」という鉄製の棒や金床の上で叩きます。

芯金は真っ直ぐな円柱ではなくてテーパーがかかっているので、大きさの違う指輪でもガッチリはめ込んで叩いたりすることが可能な便利な道具です。指輪を作る際には必須の道具の一つですね。

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芯金に地金を当てながら木槌で叩きます。まず、地金の端っこのあたりを芯金に当てながら叩いて丸めていきます。

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芯金である程度丸めた地金を、金床の上でも木槌で叩いて断面を合わせていきます。

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↑ある程度丸くなりましたが、断面にはまだ隙間が大きくて角度的にも合っていないので、もう少し叩きます。

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このくらいピッタリ合っていればとりあえずOKです。次の段階に進めます。

それにしても何度も言うようですが、18金は硬いですねえ・・・本当は(そこまでやる必要がないとは言え、)もう少し円に近い形になるまで叩きたかったのですが、ちょっと難しかったです。

銀(シルバー925)とかだったら、この太さの地金であればもっと簡単に丸くすることができるのに、18金はなかなか言うことを聞いてくれませんでした。

更にピッタリ合わせる

ここまでの作業で、木槌で叩いてかなりピッタリと断面を合わせることはできました。

しかし、きれいにロウ付けするためにはもっとピッタリと合わせる必要があります。

そのためには「糸鋸」と「芯金」と「溝台」という道具を使います。

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溝台

溝台とはその名の通り、断面が円弧の溝がある鉄製の塊状の道具です。

これらの道具を使って断面の隙間をほぼ完全に無くすことができます。ですが、少しやり方がややこしいので、実際にやっていく前にその方法についてを簡単に説明しておきましょう。

まず、指輪の接合面はまっすぐな状態ではなくて少し食い違ったりしてガタガタしているような状態です。これを修正するために糸鋸でこの隙間にノコ刃を入れていきます。

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↑糸鋸の刃で削るように接合面を切りぬくことで、断面の余分な部分が削れて真っ直ぐな隙間が空きます。

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そして、芯金に指輪をはめて、指輪の円よりも狭い溝台の溝にあてがって、芯金を木槌で軽く叩きます。すると、糸鋸で削った部分が閉じます。

とまあこんな感じの理屈で、完全に断面同士を合わせることができるというわけです。一度だけで隙間を完全になくすことができなかったら、何度かこの作業を繰り返します。

というわけで、実際にやっていきます。

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まず、糸鋸で断面の隙間の余分な部分を削ります。

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芯金に指輪を通して・・・

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溝台に乗せて・・・

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木槌で軽く叩きます。

これを2本の指輪それぞれに1~3回くらいずつ繰り返しました。

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↑このくらいピッタリしていれば問題なくロウ付けすることができるでしょう。

ロウ付けする

さて、準備が長くなってしまいましたが、いよいよロウ付けです。

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まず、フラックスをたっぷりと塗ります。

フラックスの量が少なかったりロウ付け作業がもたもたと長引いて途中で枯渇したようになってしまったりすると、ロウがうまく溶けなかったり流れなかったりします。ロウ付けする時は、フラックスは本当に重要なので、様子を見てロウ付けの途中でフラックスを足したりすることも必要になったりします。

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↑バーナーで地金を温めていきます。

基本的には、大きめの炎でロウ付けするもの全体を炙るようにすると、全体が均一に温度が上がるのでロウ付けが失敗しにくいです。

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↑フラックスが完全に溶けて、地金の温度がある程度上昇したら、ピンセットでロウ付けしたい箇所にロウ材を置きます。

ちなみに、今回使用する金ロウは非常に小さく切ってあるので、予めピンセットの先端を削るなどしてつかみやすく加工して置いたほうがスムーズに作業することができます。

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↑金ロウを置いた場所付近を中心に、ロウが溶けて流れるまで再び全体を温めます。

あまりやりすぎると地金が溶けてしまうので、ロウと地金の様子をよく観察しながら炎を当てます。全体的に均一に温度が上がっていけば、必ずロウ材の方が地金よりも先に溶けるはずです。

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↑金ロウ、流れました。

ロウ付け後は徐冷します。いきなり水に入れたりして急冷してはいけません。

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酸洗いをして、ロウ付け作業は終了となります。

7. 真円にする

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ロウ付けが完了したことで、とりあえず18金の地金は輪っかの状態になりました。しかし、まだ形としてはいびつな状態になっています。

次はこれを指輪らしく、真円に加工していきます。

やり方はシンプルで、芯金に突っ込んで木槌で叩くだけです。

ただし、少し難しいのが指輪のサイズにピッタリ合わせることですね。今回の場合、一つは19号、もう一つは9号にしなくちゃなりません。

しかし、地金の長さが間違っていたりすると、狙ったサイズにすることはできませんし、木槌で叩きすぎて地金が伸びてしまうことで正確にサイズを合わせることができなかったりすることもあります。

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なので、芯金に入れて叩きながら、サイズ棒に指輪を入れて現在どのくらいのサイズなのか確認しながら叩く必要があります。うっかり叩きすぎて、いつの間にかサイズが大きくなってしまうことも多いですので。

逆に、少しサイズが小さいだけなのであれば、木槌で多めに叩いたり、場合によっては唐紙鎚で叩いてサイズを広げることもできたりします。指輪のサイズ合わせは経験で微調整の感覚を覚えるしかないかなと思います。

もしもサイズ合わせが失敗してしまった場合、もう一度糸鋸でロウ付けした場所を切って削るところからやり直すしかありません。


以上のようなことを気をつけながら、指輪を真円にする作業をしていきます。

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芯金に入れて指輪を叩く前に、ロウ付けした箇所の内側だけは予めヤスリで削っておきましょう。この部分は金ロウの分だけ盛り上がっているので、そのまま芯金に入れて叩くとその部分だけ変に凹んでしまいます。

内側の出っ張りを平らに削り終わったら、芯金に通して木槌で叩きます。

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コツは、基本的に芯金と指輪の内側が触れていないところだけを叩くことです。その部分は出っ張っている部分__ということなので、この浮いている部分を引っ込ませればそれだけ円に近づくわけだし、出っ張っている部分を叩く分には地金も伸びることはありません。

たまに、電球や外の明かりに向けて指輪と芯金の隙間を確認するようにすると、どの部分がまだ浮いているのかわかりやすいです。

それと、指輪を芯金に通して全体を叩き終わったら、一旦指輪を外してひっくり返して指輪の逆側からはめ直して叩きます。芯金はテーパーが付いているので、そのまま指輪の片方側から叩き続けてしまうと、指輪の内側にもテーパーが付いてしまうということになってしまいます。

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ある程度作業が進んだと思ったらサイズ棒でサイズを確認します。

とまあ、こんな感じの作業を繰り返して、2つの指輪を徐々に真円に近づけていくというわけですね。

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↑てなわけで問題なく円形に加工することができました。サイズもピッタリでした。

8. 側面を平らに削る

さて、あとは削ったり磨いたりする作業をすれば、指輪の完成となるわけなのですが、手順としてはまだまだいろいろあります。

まず、指輪の側面を削って平らにする作業です。

使用する道具は、紙やすり平らな台です。紙やすりは比較的荒めのものを使います。平らな台は紙やすりが置ければ何でも良いですが、完全に真っ平らで凹みや出っ張りがないものでないとだめです。(正確にやるのであれば定盤推奨)

今回は定盤(じょうばん)の上に#100の紙やすりを置いて作業をしました。

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指輪を指で持ちながら紙やすりで削ります。一応、動かし方は「8の字」に動かすときれいに平らにできると言われていたりもしますが、変に偏った削り方をしなければ、そこまで8の字にこだわる必要はないと思います。

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側面全体に紙やすりの削り跡がついたらOKです。

もっと丁寧にやる人だったら、#100→#240→#400とかくらいまで順番に番手を上げていくかもしれませんが、個人的には#100の紙やすりだけで十分かなと思います。

それと、削った粉はちゃんと回収して取っておきます。この後の削り作業でもそうですが、18金の粉が大量に出ます。これを捨ててしまうのは非常にもったいないです。(下にトレイなどを用意して地金の粉はすべて受け止めるようにしています。)

溜まったら、あとで業者に分析に出せます。分析に出せば、金粉や不純物の混ざった貴金属も、またまっさらな地金に戻してもらうこともできるし、その地金を買い取ってもらうこともできます。(手数料がかかるので、かなりの量が溜まってから出します。)

なので、18金に限らず、銀やプラチナなどの貴金属を削った時は必ず削り粉は回収するようにしています。

9. ヤスリで削る

次は、ヤスリで指輪全体を甲丸リングの形に削っていく作業です。

削る時の考え方について

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ヤスリは、とりあえず↑これくらいあれば、大丈夫でしょう。これらのヤスリは削る場所と工程によって使い分けます。

甲丸リングは、冒頭でも少し書いたように断面がかまぼこ型のような形をしている指輪です。今現在の指輪の断面は長方形なので、これを削って甲丸リングの形にしていくというわけです。

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作業としては、上の図のように「角(かど)を落としていく」イメージで削ります。まず、直方体の一番大きな角を削り落とし、その次も大きく削ったことでできた「角」を落とします。こうして何度か角を落としていくことで、なめらかな曲面を削って作ることができるのです。

なぜ、このように削らなくてはならないのかと言うと、図のように断面から見たときだけではなくて、指輪を側面から見たときも均一に削らなくてはならないからです。指輪一周を均一に削るためには、適当にやっているだけでは難しいですからね。

適当になんとなく削っているだけでは、きれいな甲丸リングを作ることはできません。なんとなくやるのでも時間をかければきれいな指輪を作ることもできるかもしれませんが、根気と時間がかかってしまいます。

その点、この削り方であれば、一定のリズムで一定の量削ることが容易になります。

角を落としていくイメージでなめらかな断面になるように削って、側面から見た時の削り方も均一であるならば、間違いなくきれいな形の甲丸リングを作れているはずです。

外側を削る

では、実際に削っていきます。

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まず、ロウ付けして少しだけ盛り上がっている箇所を軽く削っておきます。大きく削る前に、変に出っ張っているところがない方が良いからです。

削り終わったら先程の図のように「角を取っていくイメージ」で削ります。使用するヤスリは中目くらいのヤスリで良いと思います。

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動画を見てもらうとわかりやすいのですが、一定のリズムで一定の量を削っていくことがコツの一つですね。徐々に、大きな角→小さな角という感じで角を落としていくと、自ずとなめらかな形に削れていくはずです。

基本的な考え方として、ヤスリを持っている右手は一定の動きでヤスリを動かし、左手で指輪を回したり角度を変えたりしながらヤスリがけをします。

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指輪の外側は大雑把に大体の形ができました。

内側を削る

今回作っている指輪は甲丸リングではありますが、内側も多めに削って使用時のつけ心地を良くする感じにしていきたいと思います。

結婚指輪ですから、毎日長時間着け続けるわけなので、少しでも装着感にはこだわりたいですよね。

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指輪の内側も、外側と削り方の考え方は変わりません。基本は角を取っていくイメージです。

指輪内側は凹面なので、使用するヤスリは半丸などの形の中目くらいのヤスリを使いました。

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こんな感じで内側の大まかな削りはOKでしょう。

細目のヤスリで大きなキズを取る

指輪全体の大まかな削りはできたので、次は細目のヤスリを使って、大きな傷を取ったり細かい凹凸をなめらかにしていく作業をします。

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ヤスリの動かし方も削り初めのやり方とは変えます。親指と人差指でつまむようにヤスリを持って、スライドするような感じでヤスリを動かすような感じです。

これまでの作業でできた凹凸を全部なだらかにしていくようなイメージですね。

大きなキズが消えていくと、細かい形の変化や流れなどもわかりやすくなります。なので、削りながら指輪の表面をよく見て、形が変に出っ張ったり凹んだりしている箇所があれば、その部分は多めに削って修正したりしながら削ります。

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↑こんな感じで、細目のヤスリは終了です。

10. キサゲとヘラをかける

ヤスリでの削り作業は終了したので、次は「キサゲ」と「ヘラ」をかけます。

キサゲ

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キサゲは、金属の表面の細かいキズやバリをこそげ取る道具です。

油砥石でしっかりと研いでから使用します。ちゃんと切れるキサゲでないと、キズを取ろうとしてるのに逆に大きなキズをつけてしまうこともあります。

この後行う「炭研ぎ」と「ヤスリがけ」の中間くらいの削り作業としてはキサゲくらいしかないので、この後の作業をスムーズに行うためにはキサゲをかけるのは結構重要だったりします。

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キサゲの持ち方は人よっていろいろあるらしいですが、僕は親指と人差指でつまんで押しながら削るやり方でキサゲを使います。指輪の内側はキサゲの腹を当てて、横にスライドするようなやり方で削ります。

とまあそんな感じで、2つの指輪全体をキサゲで削っていきます。

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↑キサゲをかけ終わりました。ヤスリの細かいキズなどが取れていればOKです。

ヘラがけ

次はヘラがけです。

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ヘラがけには超硬の「磨きベラ」を使います。

超硬合金というのは金属の種類で炭化タングステンなどでできているめちゃくちゃ硬い金属です。ドリルや旋盤のバイトなどの切削工具などにも使われている事がある金属です。

この超硬い金属でできている磨きベラをピカピカに磨いたものを使って、指輪の表面を擦ったり押し当てたりします。これによって、指輪の表面に光沢が出ます。細かいキズもある程度であれば消えます。(ものによってはヘラがけだけで仕上げることもあります。)

また、ヘラがけによって表面が加工硬化するので指輪使用時にキズがつきにくくなるとも言われています。様々な効果があるので、指輪を作る時はキサゲの後にヘラがけをするようにしています。

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かなり強めに力を入れてヘラでコリコリと全体をこすっていきます。

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全体に光沢感が出たらヘラがけ完了です。

11. 炭研ぎ

ここまでの作業で指輪制作の工程の終盤まで来ました。

炭研ぎは炭を使って金属の表面を磨く技法ですが、今回は「朴炭」と「桐炭」2種類の炭を使い分けて作業していきます。

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桐炭(画像左)と朴炭(画像右)

炭研ぎ用の炭の粒度は#1000くらいであると言われています。炭は#1000にしては結構いい感じにザクザク削れるし、ちょっとした凹凸があってもある程度なら自然な感じに取ってくれます。

炭研ぎならではの仕上がりの美しさもあるので、こういう昔ながらのやり方も捨てたもんじゃないのですよね。今ならいろいろと便利な研磨の道具がありますが、炭の完全な互換品はないですから・・・

作業手順としては、朴炭の方がたくさん削れるので、朴炭で大雑把に削って、桐炭で仕上げという感じの順番で作業をしていくことになります。

他にも研ぎ用の炭の種類として「呂色炭」なんてのもありますが、これは漆の研ぎ等に使われる特殊なやつなので、金属の炭研ぎではあまり使うことはありません。

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まずは朴炭で削ります。

適当な大きさの炭を使って指輪の表面を丁寧に磨いていきます。炭の形が良くないとうまく削れないので、その場合は砥石で炭を削って形を加工してから作業します。

水の入った桶などを用意して、水をかけながら作業をします。

水道で水をチョロチョロ出して常に水をかけながら炭研ぎをすることもありますが、今回は炭研ぎで削れた金も回収したかったので、この方法で炭研ぎすることにしました。(終わったら上澄みを捨てて沈殿物を分析に出します。)

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指輪の内側は細かい炭を使って研ぎます。

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ある程度全体を磨いていったら、水に浸けて炭の黒い汚れを落として傷の有無を確認します。そして傷がまだ残っているのであれば、その部分はもう少し研ぎます。

全体のキズが取れて、指輪全体が炭で研げたら、桐炭に移行します。

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桐炭でも指輪全体を磨いていきます。

水をかけてみて、金属表面の研ぎ加減にまだむらがあるようなら、継続して研ぎ続けます。

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↑キズが消えて、このくらい全体が均一な雰囲気になれば、炭研ぎは終了で良いと思います。

次はいよいよ最後の仕上げで「胴摺り」をしていきます。

12. 胴摺り

胴摺りは炭の粉を胴摺り用の刷毛につけて磨く技法です。

基本的には炭研ぎ→胴摺りという順番で作業します。仕上がりは非常に美しい独特なツヤ消しになります。

胴摺りには胴摺り専用の「胴摺り刷毛」という道具があります。(買うとすごく高い!)胴摺りは、この胴摺り刷毛という道具に炭粉をつけて行います。

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しかし、実は学生時代に使っていた胴摺り刷毛をどこかにやってしまって見当たらないので、今回は柔らかめの水彩筆の毛先を短くカットしたものを胴摺り刷毛の代わりに使用しました。

本当は、もっとちゃんとした胴摺り刷毛を使いたかったんですけどね・・・でもまあ、この水彩筆でも普通に胴摺りできますし、指輪のような細かいものを胴摺りするにはやりやすかったので、かえって良かったのかもしれません。ただし、筆の根本の金属部分に当ててしまうと指輪にキズが付いてしまうので、それだけは気をつけて作業をしました。

炭粉を作る

まず、胴摺りに使用する「炭粉」を作ります。

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今回、炭粉は朴炭を荒い砥石で擦って作りました。少し水をかけて適当な大きさの朴炭を擦っていくと、ある程度の量の炭粉を簡単に作ることができます。

作品が大きい場合などは大量の炭粉が必要となるので、その場合は乳鉢を使って一気に炭粉を作る場合もあります。

しかし今回のように指輪のような小さなものを胴摺りする場合は、少量の炭粉だけで良いので、砥石で炭粉を作る方がお手軽なのでおすすめです。

胴摺り刷毛で擦る

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胴摺り刷毛(筆)に炭粉をたっぷりとつけて・・・

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優しく全体を擦ります。

時々、水をかけて炭粉を落として、ツヤ消しの感じにむらがないかどうかを確認しながら作業します。

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↑指輪の表面が均一な感じになったことが確認できれば胴摺り完了です。

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これで2つの指輪が完成したということになります。

超音波洗浄機で洗浄

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最後の仕上げに、超音波洗浄機を使って汚れを落とします。

指輪の内側の刻印の凹みなどに炭粉が詰まってしまって黒くなっていたりしたのですが、それは超音波洗浄機を使わないとなかなか落とせませんでした。

ちなみに、適当な容器に台所用洗剤とお湯を混ぜたものを入れて、その中に指輪を入れることで洗浄力をアップさせて超音波洗浄機を使っています。

それと注意点としては、同じ容器に指輪を入れて超音波洗浄機にかけないことです。もしも同じ容器に入れて洗浄してしまうと、指輪同士が触れあってキズが付いてしまうからです。

数十秒ほど超音波洗浄機にかけて、すべての作業の終了となります。

13. 完成

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完成しました。

丁寧に作業したのできれいな甲丸リングの形に削ることができたと思います。この銀と銅が半分ずつ入っている18金は、純金と比べると黄色っぽい色合いですが、純金よりも個人的には好みの色です。

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↑刻印が入っている裏側はこんな感じ。

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やはり胴摺りするときれいですね。ギラギラしていなくて品がある光沢感だと思います。

指輪は日常的に使っていると、キズが付いてしまうと思うのですが、個人的には胴摺りした指輪はちょっとくらいキズが付いてもそんなに変な感じじゃないと思うので、使えば使うほど味が出る感じに変化していくかもしれません。

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せっかくなので二人で指輪を着けたところも写真に撮りました。サイズぴったり!

大事に使っていきたいと思います。

まとめ

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ずいぶんと長くなってしまいましたが、以上で18金で作る結婚指輪の作り方についての説明は終了です。

関係ない話ですが、今回は、指輪の制作工程がブログの文章と写真だけじゃ、作っている雰囲気や動作をどうやっても伝えきれないなあ・・・と言うことも考えて、頑張って撮影しながら作業をしてみました。彫金みたいな細かい作業は写真だけじゃどうしても地味になりがちですしね。

やってみて思ったのですが、動画ならば、ブログよりも雰囲気が伝わりやすくて良いですね。動画だったら長文読むのが苦手な人も見てくれるかもしれませんし、これからは動画を撮って編集してその内容を補足する感じでブログを書いたりするのもおもしろいかもなと・・・そんなことを思いました。

とりあえず、8年越しでやっとの事でちゃんとした18金の指輪を作って、うちの奥さんにプレゼントしたら喜んでくれたので良かったです。

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