「素材」をテーマにしたアート展:LOVE THE MATERIAL in AOYAMAに展示参加します - MIKINOTE
実は明日、展覧会の作品搬入の日なのですが、よく考えたら、このブログで今回の展示に出品する作品の紹介をきっちりしたことなかったなあ、ということを思い出しました。
そこで、明後日から始まる展示に出品する作品2点(頭蓋骨と肺)について、制作工程とコンセプトなどを連続して書いていこうかなと思います。
この記事では、『iPSパーツ〜頭蓋骨』というタイトルをつけた作品について紹介します。
この作品は、素材として電子パーツの『抵抗』を使用しています。その数は5500個以上で制作期間は2ヶ月くらいです。一つ一つをピンセットでつまんでハンダ付けして作りました。
その名の通り、頭蓋骨をモチーフにした作品です。タイトルは「iPS細胞」と「電子パーツ」を組み合わせたような名前・・・ということで考えました。
量産されて入手することが容易な電子部品と、実体がなく、いくらでも複製が可能なデジタルデータ、そして簡単に複製することができない人体のパーツを対比的に表現しました。
制作工程
『iPSパーツ〜頭蓋骨』の制作工程について書いていきます。
油粘土で模型を作る
まず最初に、完成イメージを固めるために、油粘土で模型を作ります。
ちなみに、この頭蓋骨はインターネットで「頭蓋骨」と検索して出てきた複数の写真を参考にしています。
抵抗の足を曲げたり切ったり
『抵抗』というのは、電子機器の基板などに使われている電子パーツの1つです。これを、造形用の素材として使用してしまおう!という邪道なことをやってしまっているというわけです。
抵抗をハンダ付けして作っていくのですが、買ってきたそのままでは立体的な作品に仕上げていくことはできません。
まずは、抵抗の足の部分を曲げたり切ったりして、調度良いサイズに整えてからくっつけていく作業をしていくというわけです。
時計やっとこ(精密なラジオペンチみたいなやつ)で1つずつ足を曲げて、切っていきます。
こうして、大きさ別に小さな皿により分けておくと、便利に作業をすすめることができます。
追記:コメントで指摘されていますが・・・そうです、使用している抵抗は0Ωのものを使っています。理由は深い理由はなくて、色味的に骨っぽい色だと思ったからこれを選んだというだけです。
ひたすらハンダ付け
ある程度の数の抵抗が用意出来たら、ひたすらハンダ付けしていくだけです。
先っちょが細い、プリント基板用のハンダゴテを使用します。
↑完成したら、外側だけではなくて、内側にも抵抗が詰まっているように見せたいので、一番中心の部分辺りから少しずつ作っていきます。
ピンセットでつまんで、小さな抵抗を一個一個ハンダ付けして、少しづつボリュームアップさせていきます。
型を作って流し込めば出来上がり!とかだったら楽で良いのだけど、この場合はそういうわけにもいきません。油粘土で作った模型を傍らに置きながら、それを参考にしつつ組み立てていきます。
段々と頭蓋骨感が出てきたかな?という感じです。
ちなみに、ハンダは机の下にセットしてあります。
机に穴が開けてあって、そこからハンダがニョキッと出ています。これを引っ張りながら新たなハンダを効率良く補充しつつ、ハンダ付けします。けっこう便利なんですよ。
また、途中で用意した抵抗がなくなったら、抵抗を適度な大きさに曲げたり切ったりして、何度でも材料を用意しながら作業を進めていきます。
ハンダ付け→抵抗を曲げたり切ったり→ハンダ付け→抵抗を・・・の繰り返しです。
かなりそれっぽい雰囲気が出てきたので、ここからは密度を上げていく作業です。
ここからが長かった!やってもやっても、作業が進んだ感じがしないのがつらかったですね。
全体の量感やバランスを見ながら抵抗をくっつけていきます。
↑こんな感じのところで完成!ということにしました。
制作期間は2ヶ月くらい。使用した抵抗の数は正確な数はわからないけど、少なくとも5500個以上は使用しました。
歯の部分なんかは、抵抗だけだと表現が難しくて、それっぽい感じを出すのに苦労しました。
光や置く場所によっても、かなり印象が変わります。
内側にも抵抗が詰まっていて、透けて中身が見える感じです。写真だと上手く表現しきれないけど、実際に見てみるとキラキラしていてけっこう綺麗なんですよ。
以上が、この作品の制作工程です。
コンセプト
『iPSパーツ〜頭蓋骨』の制作テーマと表現したかったコンセプトについて書いていきます。
タイトルとテーマについて
タイトルの「iPSパーツ」とは、「iPS細胞」と「電子パーツ」を組み合わせた言葉です。
iPS細胞は、再生医療等の技術として非常に注目を集めているわけですが、この作品シリーズも「臓器移植」等を、テーマの1つとして考えたものだったりします。
人間の健康というのは、かけがえのない貴重なものです。どこか1つの体のパーツが失われたり、機能しなくなったりするだけで、それが損なわれてしまいます。
だけど、現在のところ、簡単に人間の体は、たとえ一部分であっても複製したり創りだしたりすることはできません。将来は再生医療の発達によって、それが可能になるかもしれないけど、現在のところはそこまで医療技術は進んでいないのが現実です。
僕は、とある経験から、健康であるということと、それが失われた時にどんな気持ちになるのか、そしてそれがどんなに取り返しのつかないことであるのか、ということを学びました。
だからこそ、iPS細胞というのは、難病に苦しんでいる患者さんとその家族にとっては希望の象徴のような存在でもあります。
そこで、「電子パーツ」という、工業的で無機的な量産可能な部品で人体のパーツの一部を創りだすことを思いつきました。電子パーツという、秋葉原などのお店で簡単に買うことができるような部品で、人体の一部分を作成することで、人間の命の尊さを対比的に表現したというわけです。
それが「iPSパーツ」という作品シリーズに共通するテーマです。
頭蓋骨
この作品は「頭蓋骨」をモチーフとして採用しています。
これを選んだ理由は、頭蓋骨というモチーフには「生と死」というテーマが内包されているからです。これは全てに人間にとって、避けては通れないテーマの1つです。
「生と死」。そしてそれを表現するために、細胞を積み上げるように地道に少しずつ立体造形していくこと。それは、当たり前のように存在している「生」を、実際に創りだすとしたらどれだけ大変なことなのか?それを、想起させるような行いであると思うことがあります。
電子パーツという無機的な細かい部品を、長い時間かけて1つずつハンダ付けして人体の一部分を組み立ててくいくという気の遠くなるのような行為をもって、「生」を生み出すことの難しさを表現できるのはないかと考えました。
わざわざ、大変な作業を経て完成に至るような作品の工程にしていることにも意味があるということですね。
この作品は電子パーツハンダ付けシリーズの初期の方で作った作品です。いろんなモチーフを選ぶことができる中で、優先的に頭蓋骨というモチーフを選んだ理由は、「iPSパーツシリーズ」のテーマと、これを作ることで「表現できること」が、合っていると思ったからだったりするんですよ。
デジタルな存在
また、「電子パーツ(抵抗)」という、電子機器の基板に必ず使用されている素材を使って立体表現したことで、「デジタル」なイメージも感じ取ることもできます。
見た目的に、透けていて空間感のある頭蓋骨。実際に見てみるとなんとなく実体がないような雰囲気も感じ取れるはずです。このようなビジュアルに表現したのは、この作品が「電子的で形のないデータのような存在」であるということも意味しているからです。
最近だと、デジタル技術が進歩していて、人工知能なんかもすごいですよね。段々と本当の生き物に近づいているような感もあります。
だけど、デジタルデータと言うのは、コピー&ペーストすれば、それだけでいくらでも複製ができるものです。そこだけは、生き物との決定的な違いであると思います。
しかし、人体のパーツや、「命」と呼ばれるものは、コピペして簡単に創りだすということはできません。
クローン技術などもあるにはあるけど、それも倫理的な問題があったりします。データはいくらコピーしても問題ないですが、命は複製すると問題が生じるのです。よく考えたら不思議なことですよね。
そういった感覚も、デジタルデータとのギャップを感じる部分だったりします。生命体と、デジタルデータや工業的に量産できる無機的な物には、我々人間の感覚の中で、絶対的な差があるのです。
人体の一部分と、それを将来的に複製したり出来てしまうかもしれない技術。それを、工業的・デジタル的な存在と対比的に表現して、「生と死」、そして「命の尊さ」を表した作品。
それが『iPSパーツ〜頭蓋骨』というわけです。
まとめ
以上が、『iPSパーツ〜頭蓋骨』の制作工程とコンセプトです。
実はこれ、二年くらい前に作った作品なのですが、作品の素材として電子パーツを使い始めた時期のものだったりするので、自分の中では思い出深い作品だったりします。
写真や、文章だけだとなかなか伝えきれない部分もあるので、できれば展示会場に来ていただいて、実際に目で見てもらえたら嬉しいですね。
次回は、明後日から始まる展示(青山あたりでやります)に頭蓋骨と一緒に出品する『iPSパーツ〜肺』について書きたいと思います。できれば明日、記事をアップしたいけど、間に合わなかったらごめんなさい。
展示の詳細については、上記のリンクを見ていただければと思います。
では!
追記:書きました。